死ぬ前にしたい1のコト
「よし。じゃ、デートしよっか」
何て答えようかとぐるぐる考えれば考えるほど、口はパクパクするだけで声が出てこない。
当たり前だ。
だって、頭の中にも答えがないんだから。
「今から? 」
「そ。こんな状態の一華さんに料理してもらうの気が引けるし、いろいろ心配だし。かと言って、俺も同じくらい料理下手だから。たまには外行こ? 奢るよ」
気を遣ってくれたんだろうな。
実くんはめちゃくちゃなようで、さっと人の気持ちに反応する方だ。
「う。下手って思ってるなら、早めに止めてほしかった」
でも、遠慮はあんまりしないと思う。
「だって、手伝わせてくれないじゃん。それに、俺の為にわちゃわちゃしてるの可愛いから」
あまりに手際が悪すぎて、見られたくないだけだったけど、しっかり見て楽しんでいたらしい。まあ、それはそれとして。
「……奢ってくれるの? えっと、その」
「あ、ひど。俺だって、いくら何でも初デートでヒモぶったりしないのに。それに、一応収入だってあるし」
新情報だ。
いつ、どんな仕事してたんだろう。
外出した感じはなかったから、在宅勤務なのかも。
「失礼なこと考えてるなー、もう。ほら、行くよ」
「ちょ、ちょっと待って……!! 」
そうじゃなかったんだけど。
慌てて、一度部屋に戻って、サッと支度を済ませる。だってそう――初デート、だから。
・・・
「ごちそうさまでした……」
「いーえ」
連れてきてくれたお店もおしゃれで、想像する「デート」って感じだった。
こんなに歳の離れた男の子に奢ってもらうのはまだ抵抗あるけど、そこは何度も言うべきじゃないのは何となく分かる。
「一華さん」
「え? 」
考えごと、よくない。
パッと顔を上げてやっと、今下を向いてたんだと気づく。
「もし今、したいことリスト作ったとしたら……デートも入れてくれる? それとも、もう経験済みだった? 」
指先を捕まえた手は、突然だったのにとても遠慮がちで。
既にそれ以上したことなんか忘れたみたいに、握るにも絡めるにも至らない。
「……こんなふうに、ちゃんとデートするのは初めて。達成、できたね」
合コンとか、そういうのはあるけど。
でも、そんなドキドキとも違う、おかしな緊張や気まずさは今、微塵もない。
だから、もし「したいことリスト」を書いたとしたら、ボックスにチェックできるはず。
「……嬉しい」
ほっとしたのか、手をしっかり繋いできて――照れたのを察知してか、そのまま一気に指を絡めてきた。
「初めてっていうのもそうだけど、一華さんがこれを“ちゃんとしたデート”って認識してくれて」
顔いっぱいの笑みが、いつもより少し幼い。
ううん、年相応かな。
普段の実くんは、とても大人びている。
経験の差と言えばそれまでだけど、そういえば私は本当に彼の何も知らないんだ。