死ぬ前にしたい1のコト
「……はぁっ……は……」
バタンと閉めたドアを背に、どうにか呼吸を整えようとするけど上手くいかない。
こんなことで、これほど呼吸困難になるなんて、世の人々はあんなそんなやってどうして息が止まらないんだろうと不思議でならない。
大丈夫かな、私。
もし、本当に今後経験できたとして、直後に窒息しちゃうんじゃないの。
それにしても。
実くんの急激なプッシュは何ゆえ?
……ううん、すごくすごく愛情は伝わってくる。だからこそ、したいんだっていうのも本心だと思う。
私には信じられないくらい、勿体ない申し出。
ただのその、セックスそのものじゃなく、そこに気持ちがあるなんて、「したいこと」には含まれてなかった。
それは、けして不要だからじゃなく、そこはそこだけは絶対――期待できないなって諦めてたから。
だが、しかし。
ちょっとキャパオーバーだ。
三十路だろうと何だろうと、ビギナーどころか未体験なものは未体験!!
それに、ヒモだヒモだと言うわりに、実くんはなかなかどうして勤勉である。
家で仕事してることが判明したのに、私が帰宅する前に大体の家事は終わらせてくれている。つまり、掃除や洗濯、洗濯物の取り込み。
(……それ)
下着類は、こっそり部屋に干してたのに。
『いいって言ったのに……!! 』
ものすごく丁寧に、しかも私よりも形良く畳んでくれていた。
『一華さん、最近帰り遅いじゃん。プロジェクトの復帰、目指してるんでしょ。疲れてるだろうし、俺やっとくよ』
『……気づいてたんだ。ありがと……って違う。ありがと、だけど、その。こういうのは畳まなくていいから! 実くんだって忙しいし、や……でしょ、こんな他人の……』
『ぜーんぜん。したくてしてるんだから、甘えてなよ。俺も、毎日ちょっと気になってるし。今日の一華さんはどんなかなーって。一日遅れだけど』
『……いいです、そんなの気にしなくて……!! 』
(……はぁ……はっ……げほっ)
そんなやり取りはともかく、あんな可愛いイケメンに迫られて、噎せる私ってやっぱりどこかおかしいのかな。病気かも。
でも、毎日これは、本当に息が止まっちゃいそう。っていうか、その前に発狂する。
(これで……どうだ……!! )
腕を組んで意味ありげに頷き、吊られたものを見上げて。ようやく、しっかりと深く息を吐いた。