死ぬ前にしたい1のコト
実くん、楽しそう。
これなら、警戒しすぎずに最初からこうすればよかった。
私が変な予防線を張ったりするから、彼も意地になったところがあるのかも。
「……こういうのが、もともとの一華さんなんだなって。服装とか、変わったから」
「ん……今まで何もかも諦めてて適当だったから。実くんも……絶対わたしのこと」
よく見てるんだな。
っていうか、ヤバい。
家の中だからとか、どうせ仕事だけだからとか。ものすごく適当なメイクや服装してた。
「からかってるだけだと思ってたから? それは別にいいよ。気の抜けまくった一華さん見るの、結構好きだし」
「……いじわる」
「違うって。本気。じゃなくて仕事、そういうのも大変だね。だから、俺の前では無理して頑張らなくてもいいよ。一華さん、ぼけぼけしてるくせに、同時に緊張しまくってるでしょ。……いいんだよ、そうやって気を抜いてて」
実くんがテーブルの向かい側から手を伸ばして、私の缶を傾ける。
あ、もうそれ空だ。ちょっと呑みすぎたかも。
「……やっぱ、これくらいか」
うん、これくらいがいい感じに酔える――……。
「あれ。結構酔ってる? 水持ってくるから、部屋行ってなよ。そのまま寝ちゃったら困るでしょ」
「うん。ありがと……」
聞こえた「このくらいか」とその後の「あれ? 」が一致しなくて、ちょっとだけ不思議に思ったけど。
「ふらふらしてる。大丈夫? 一人で行ける? 」
「そんなに酔っぱらってない……」
「あっそ? じゃ、片付けてから水持っていくから起きてなよ? 酔ってないんでしょ、酔っぱらいのお姉さん」
やっぱり、からかってる。
でも、ありがたすぎる申し出に大人しく頷いて、部屋に戻った。
・・・
「一華さん」
「ん……」
いけない。
起きててって言われたのに、うつらうつらしてた。
しかも、ベッドに座っただけだったのに、いつの間にかごろんと横になっている。
「水、飲める? 」
「……飲める」
これ以上からかわれたくなくて、少し嘘を吐く。
起き上がったつもりがまだ微妙な角度がついていたのに、コップを受け取る手はぎゅっと握って口に運んだから、情けないことに上手く喉を通ってくれない。
「あーあ、だから聞いたのに。無理って、最初から言ってくれてたら……」
「ん……んっ……」
垂れそうになった水を舌で掬って、口内に戻そうとする。
それでも溢れ返りそうになるこれは、このキスは――……。
「……ねえ、一華さん。俺ね、もう限界」
――ゴクン。
もう何だか分からない液体を飲み下した音と。
喉に上手く流れなかったそれを親指で拭いながら、実くんが器用にコップをサイドテーブルに置いた、コン……という音が生々しく重なる。
「――しよ? ……俺と」