死ぬ前にしたい1のコト
「よいしょ、っと」
そんな掛け声なんていらない。
実くんの手が、もともと不安定だった私の身体を押したのは、それよりも前だったからだ。
「……知ってるよ。一華さんが普段どれくらいの量呑むのか、それが仕事に影響出ないくらいセーブしてるのも。だから、このくらいなのかなって思ってた」
腰が膝に挟まれて動かない。
両手も、見せつけるように緩く拘束されている。
繋がれて絡まって、少しでも逃げる素振りがあれぱ甘く噛まれる。
「ね、しちゃお。一華さんは、俺としたくない? 言ったよね、恥ずかしがらなくていいって。それでもしたいのに恥ずかしいなら、俺に襲わせとけばいいじゃん。……ほら」
捕まった手を、私に見えるように持ち上げて。
手首を掴まれただけ、それを見せられただけでどうしてこうも卑猥なのかと衝撃を受けている間に、唇が耳に近づいている。
「一華さんは俺に襲われてるの。こんなふうに拘束されて、酔ってるところを押し倒されて……何があっても、どうしようもなかった……ね」
実くんは分かってるのかな。
「私にはどうしようもなかった」と言い張るには、彼の言う拘束はあまりにも緩すぎる。
納得してないのがバレたのか、軽く笑って。それでもなお、彼が身体を起こすことはなかった。
「一華さんは、まだ俺にそれほどの気持ちがないのは分かってる。……俺、いいから。俺はそれでもいいから、早く欲しい。……止めたいんだ。この感じ」
「この……? 」
気持ちがなくてもいいって。
身体のどこからも、「好き」が一滴も滲み出てこなくてもいいって。
そう思うの、分かるよ。
だってあの時、絶対に私もそう思ってた。
「あちこち、痛い。一華さん見てると、早く早くって焦って、苦しくて、そうなる。一華さんが手に入るまで、ずっと続くんだって分かりきってるから余計きつい」
「みのり、く……ん、あ……っ」
たったこれだけで、名前も呼べず。
耳を這ったそれが舌だと思っただけで、指先も爪先も先端すべて、ピンと硬直して動けない。
「俺は好き。だから、優しくするなんて、嘘っぽいよね。……でもね」
撫でられたって、緊張の糸は緩まない。
安心させるように撫でれば撫でられるだけ跳ねる私に、嬉しそうな困ったような顔して。
ねえ、私の何がそんなに――。
「優しくできるかなって心配になったの、一華さんだけなんだよ。だから、俺にちょうだい。……お願い」
――そんなに、彼の瞳を愛しそうにさせるんだろう。