死ぬ前にしたい1のコト


苦しい。
声を我慢しようとすると、呼吸も上手くできなくなる。


「息しなよ。どうせそんな長い間、止めてられないんだから。それとも、そんな小さい抵抗で解放してもらえると思ってる? 」


そうかもしれない。
そうやって意地悪に笑いながら、反対に力は緩むと思ってたのかも。


「お茶、冷めちゃうね。早く淹れ直して持ってかないと、怒られるんじゃないの」


酸素の足りない頭が、どうにか仕事を思い出す。

そうだった。
早くしないと、お客様が帰られてしまう。
ううん、もう既にお茶を出すタイミングじゃないんじゃ……。


「それか、誰かが痺れを切らしてこっち来ちゃうかもね。仕事サボって、こんなところてでこんなことしてるのバレるかも」

「……っ、だったら、離し……」


やっぱり、息なんかできない。
キスの合間にどうにか押し返そうとしたって、なぜかより距離は狭まり、次のキスが余計に長く深くなる。


「無理。だって、別に俺はバレても困らないし。ま、女に興味ないって思われてるのは楽だったけどね」


酸欠と混乱で、ユウの声すら遠く聞こえる。
なのに、時折漏れる吐息や、耳の辺りの髪に触れられて鳴るくしゃっという音。

今、これまで想像もしていなかったようなことが起きてる――そう実感するしかない、何とも表現できないような音ばかり耳が拾って、これが現実だと教えようとする。


「あの子、思ったよりガキだね? 喧嘩売られて買うのはいいけどさ、もしかして応援されてんのかなって思ったよ。これ見て、さすがに黙ってられないし」

「……そんな……」


実くんは、そこまで考えてないはず。
ただ、私がいつまでもグズグズしてたから。
だから、あの時――……。


『願掛け』


そう言って。
キス、して。

そこが、思いのほか色づいたことに驚いたみたいに、切なそうに申し訳なさそうに笑ってた。


「そんなんじゃ……」


どのキスの後も、絶対。
大人で、優しくて、落ち着いて――余裕のある触れ方すべて、苦しそうなのは実くんの方だった。


(……息、して)


恋愛経験ゼロの私がそう言いたくなるくらい、傷つけないように呼吸すら我慢してるみたいな、そんな――。


『……優しくできるかなって』


――そんな、自分を犠牲にするみたいな。


「……っ、ごめん……!! 」


そう、私が感じられたキス。






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