死ぬ前にしたい1のコト
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あれは、いつ頃だったかな。
『え、佐上くんって大学同じだったんだ』
『え、って。別に、驚くようなことでもないじゃないですか』
「先輩のおかげ」なんて、改まって言われることは本当に何もできてないけど。
話相手くらいにはなれたかな。
それだって、私の方がすごく救われてたんだけどね。
『そうかな? 佐上くんと通りすがってたら、記憶に残ると思うけど』
『……それ、どの口が言ってます? 入社その日に俺、柳原さんの目の前で自己紹介したんですけどね。んで、その日スルーしたの誰でしたっけ』
『そうだった。佐上くんが迷子になってたのに、気づかなかったんだった』
『……るさい。どっちにしろ、同じってだけじゃ、通りすがることすら難しいし』
少しからかうと、拗ねちゃうところとか。
まだ可愛かったから、まだ出会って――出会ったと思ってたあの日から、そう経ってなかったと思う。
『それもそうか。そういえば、佐上くんってどうしてこの会社に来たの? ……その、嫌な思いしてない? 』
若くて可愛いくて、いい子。
女性からは追いかけられ、やっかんだ男性からは不本意な扱いを受けることもあったはず。
『……特に、言えるような理由ないですよ。ま、どこに行っても面倒なものは面倒なんで』
『……そっか』
そうだ、休憩室で。
偶然会って、ちょっとだけ気まずくて、間を埋めるようにコーヒーを渡して。
そんなことが何回か続いて、いつの間にかお互い好みも覚えてたよね。
『柳原さんは、好きで入社したんでしょ? 』
『うん。でも………』
正直、どうして入れたのかよく分からなかった。
特に成績がいいわけでも、化粧が上手いわけでも、取り立てて目立つものはない。
『……だから、かな』
好きだから。
コスメも、メイクも、可愛いくなりたいって思うのも、そう思っている人も。
それは絶対、誰か特定の限られた人たちだけのものじゃない。
誰だって、みんな気軽に使えて楽しめるもの。
普段使いできる、ベーシックなもの。
ちょっと冒険気分で、チャレンジしやすいもの。
自分が平凡だからこそ提案できることがあるんじゃないかと、その頃の私は信じて疑わなかった。
『なにそれ。意味不明ですけど』
あれ、砂糖切れてる。
いつもスティックシュガーが置かれているバスケットを無意味に漁って、やっと諦める私に軽く溜め息を吐いた。
『……変わらないね、先輩』
『え……? 』
なぜか彼のポケットから出てきた砂糖に驚いて、私はきっと大切な一言を聞き逃していた。