死ぬ前にしたい1のコト



・・・



休憩室に行くと、先客がいた。


「……サボってる暇あるの? 」

「……そっちこそ」

「俺はできる子だもん。一緒にしないでくれる」


ごもっとも。
ムッとはするけど、言い返せない私に笑ってコーヒーを淹れてくれた。


「……一緒になんかできないよ。俺は、仕事にイチみたいな情熱ないから」


冷えた指先に、薄い紙コップは心地いいようでジリッ……と痛い。
どこを見ていいか分からなくて、真っ黒の液体を上から見下ろした。


「俺がここに来たのは、先輩に会う為。今度こそ認識されて、覚えてもらう為」

「え……? 」


『先輩』


コーヒー。
休憩室。
それに。


『変わらないね、先輩』


その呼び方。


「……あーあ。思い出してもらえなかったか。いや、まーね。だから、想定内なんだって。ムカつく」


時間切れ。
そんなものないのに、そう言ってくれるのは。


「イチの言ったとおり、すれ違ってんのよ。んで、お前やっぱり覚えてないの。……あー、はいはい。その会話も忘れてるよな。だと思って……」

「それは覚えてる……!! 」


――伝えるまでもなく、気づいてるからだ。


「へー、びっくり。じゃ、分かってるよな。俺があの時、どんだけ張り倒してやりたい気分だったか」

「……………どう出会ったんでしょうか」


私だって、自分を張り倒してやりたい。
気がつかなかったどころか、ここまで言われて思い当たる出来事が何もないなんて。


「あんまり聞きたくないかもよ? けして格好いいもんじゃなかったし。けっして」

「……二回言わなくても、分かってるってば。ユウと一緒にいて、格好いいことなんかできたことないし」

「いや、ほんとそれ」


(……なんで好きになってくれて、好きでいてくれたままなんだろう……)


熱かったのか、一口飲んで顔を顰めた。
別に何てないことなのに、とても見ていられなくて、私も自分のカップに唇をつける。


「……嘘。本当は、ちょっと格好よかったし……可愛かった」


それこそ、びっくりすぎて、コーヒーを飲む前にもう噎せてしまう。


「なんで、そこ? 当たり前でしょ。可愛いって思わなきゃ、好きにならないよ」

「……でも、再会してよく幻滅しなかったね。自分で言うのもなんだけど」


可愛い!?
いや、初対面なら多少は猫被ってたかもしれないけど。
こうやって仲良くなってからは、完全に素だったのに。


「まあ、すごかったよな。俺相手に夢の初体験語ったり、かと思えば急に冷めた現実言い出したり」

「う……お願い、忘れて」

「むーりだって。……その時にはもう」


――何見ても、何されても可愛くて、好きで。好きすぎて……仕方なかったんだからさ。



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