死ぬ前にしたい1のコト


「あの頃の俺も、モテたからさ。あの日も学校で囲まれてた」


ナルシストっぽく言うの、苦労してるね。
それに、やっぱり下手だ。


「イチはさ、少し離れたベンチで一人でコーヒー飲んでたよ。みんな誰かと笑ったり、ふざけたり、いちゃついたりしてんのに」

「……それで目立ってたんだ」


私は、その頃既に私だった。
友達もほぼいなかったし、そんな私に好きな人も恋人なんているはずもない。
覚えてなくても、それは簡単に思い出せる。


「俺にはね。大して仲良くもない友達作ったり、それほど好きでもないのに付き合ったり……なんか、そうしてないといけない世界が、すごい苦痛だったから」


『あー、怖かった』

『え……? 』


「隣に座って、いきなり声掛けたらお前、ぽかんとアホ面してたよ」


『怖くないですか。他人に集団で囲まれるとか。相手が男だったら、強引なことしていいわけじゃないのに……こっちがやられるかと思った』


「……でも、笑わなかったよね。そんなやつ、初めてだった」


『そうですよね。ごめん、助けられなくて』


「モテていいじゃんとか、女嫌いなのかとかそういうの一言も聞かないで、真顔でそんなこと言ってた」


『……本当ですよ。次見掛けたら、助けてください』


「すげーびっくりして。何て言っていいか分かんなくて」


『……えっと。正直、もう会えないような気もするけど。でも、分かった』


「俺から話し掛けて、必要もないのに名前聞いたのイチだけだよ。俺の名前、聞かなかったのもお前だけ」


『柳原先輩……。先輩? だよね』

『うん、たぶん。あ、そろそろ行かなくちゃ。その……あのさ。何も知らないのに失礼だけど、その。確かに、ああいうの嬉しくないなら怖いと思うし』


――嫌なら、囲まれる前に逃げてもいいと思うよ?


「代わりに、好きなものといれる時間、増えたらいいねって。意味不明だったけど、その時お前が笑ったの……ずっと頭から離れなくて、すごい調べた」


『……イチ、か……』


――先輩。


『変な女』


――柳……いちか、先輩。


「ここ入社するより、お前のこと知る方がずっと大変だった。好きでもないものに囲まれて、その中心でじっとしてる暇なんかなかった。やっと……やっと会えて、正面からお前のこと見れて嬉しかったよ」


――そのたびに、俺、助けてもらったから。


「お前の世界の片隅にでもいたかった。目の端っこでいいから映りたかった。なんせ、鈍い先輩だから? そうやって一生懸命になるのが苦じゃないって……むしろ、楽しんでるじゃんって自分で思った。で、それが何て言うのかって」


――好き。それ以外、しっくりくる言葉なんか、他になかった。




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