死ぬ前にしたい1のコト
「すっごい楽しかったんだよね。好きで好きで、恩人で憧れの先輩を弄り倒すの」
「ん……うーん……」
それは、ちょっとよく分からない。けど。
「……だからさ。口説くの、先延ばしにしちゃった。そこ、完全に間違ってた」
長い間ずっと、気持ちを抱えてくれてたんだってことは、痛いくらい伝わる。
「恋愛の意味分からないって気持ち分かる、なんて……理解者ぶったりしないで、さっさと伝えてればよかった。結局、臆病なままだよな」
「そんなことない……! 」
主任のことも、ユウがいてくれたから立ち直れた。
仕事、全然上手くいかなくて。
若い子たちがどんどん抜擢されて、腐ってた時も愚痴聞いてくれた。
挙げ句、落ちるとこまで落ちて、雑用係みたいになって、給料泥棒みたいに揶揄されたって。
「馬鹿にはされまくったけど。でも、そんな私をまっすぐ見てくれたの、佐上優哉くんだけだった」
遠くから眺められたり、見下ろされたりがしょっちゅうな私を、こんなに近くで目を逸らさないでいてくれたのは佐上くんだけ。
「……ここでは、になっちゃったけどな。そうなる前に動いてたら……って、やめ。他の男のものになった後に言っても意味ないし」
「……ユウ」
「だから、いらないから。ごめんも、ありがとうも欲しくない。言ったよな。俺、本当に普通の感情しか持ってないの」
温くなってるはずのコーヒーをもう一口含んで、また眉を寄せた。
「落ちてるとこ、弱ったところ甘やかすのが最高に楽しいって。他に味方なんかいないんだから、俺だけ頼ってればいいって。成分エゴのみの愛情」
「……それ、普通? 」
「ふっつー。少なくとも、俺の恋愛感情に自己犠牲なんてない。だから、感謝とかおめでたいこと言うのやめて。心置きなく、あいつとやれば」
「……や、そんなすぐ……な、ん……っ、あっつ……! 」
そんなに不味かったのか、無理やり自分のカップを私の口に押しつけて中身を飲ませようとする。
「嘘つけ。熱くないでしょ。……ってか、次、俺のとこ来て、そんなぼけーっと間抜けな顔してふらふらしてたら」
――さっきの、途中で止めたりしないから。
「あの坊やにも、そう言っときな。了解? 」
んぐんぐ、ごくごくするしかない私に、にっこり笑って頭を撫でた後、ようやくカップを退けてくれた。
(……熱くない、けど)
――泣きたくなるくらい、甘い。
ユウは、ブラックしか飲まないのに。
彼が私を置いて、一人で休憩室を出た後、ぼんやりと目に映ったバスケットの中は。
――やっぱり、砂糖が切れていた。