死ぬ前にしたい1のコト
ちゅっ……。塞がれては離れ、また塞がれるたびに漏れる音が、全身に熱をもたせる。


「……は……」


ただの声じゃない。
言葉でもない。
誰かの――好きな人の、何とも言えない音がこれほど近くですることが、こんなに幸せだと思わなかった。


「みのりくん」


発音が下手すぎる。
日本語だとか、母国語だとか、そんなこと以前に何を喋っているのかも分からない。


「やだ。もっとする。やだって言われても、したい」


――でも、一華さんだってほら……だよね。


そう言う代わりに、敏感なところをすべて、できる限りに同時に攻め立てられる。


「そんなこと、言ってな……っ」

「そう? なら、尚更やめなくていいじゃん。そのまま、俺にされてなよ」


かと思えば、ひとつやめられたり。
ふと、力が抜けたところを、今度はそっち。


「意地悪……っ」

「心外。仕方ないでしょ。俺も、一華さんが初めてなんだから。探して探って、見つけて……早く覚えたいの。だから、ね」


――もっとさせて。もうちょっと付き合って。


甘く吐かれた余韻が消えないうちに、一際声が上がったのを満足そうに笑う。


「一華さん、大好き。入ったら、今度は俺の方が余裕なくなっちゃうから……もう少し、優しくしてたい」

「……これ、意地悪だと思う……」

「だから、違うってば。大好きな人を可愛がってるの。だから、愛と優しさでできてるよ。主に」


その笑顔に弱い。
ものすごく嬉しそうで、甘くて蕩けそうで、痺れるくらい熱っぽい。
そんなふうに、見つめられたら。


「一華さん、教えて。俺のこと……」

「……っ、みのりく、すき……っ」


もう、恥ずかしさが負けて。
そんな、分かりきった飾り気のない本心しか出てこない。
ふと、実くんの声も呼吸も聞こえなくなって、不安になってぼやけていた目の焦点が合うと――最後の最後、もう一度だけ確認するような視線とぶつかったけど。


「……我慢させる。ごめんね」


――答えは、もちろん変わらない。

『痛くない? 』も『大丈夫? 』も言えない実くんが好きだから。


「……うん……」


その気持ちを確信したら、大丈夫だから――続けて。


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