強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
 また口元を緩めて手のひらに収まる小さな箱を見る。


 やはりいきなりすぎるとか、早すぎると怒るだろうか?

 でも、断りはしないだろうと思えた。


 彼女の気持ちを聞けたから。


 それでもやはり断られたらどうしようかというわずかな不安はある。

 そんな不安と期待を胸に俺は依子が待っているであろう場所へ急いだ。


***


「……カテリーナ、依子はどこだ?」

 一緒に待っていてくれと言い置いたはずなのに、その場にはカテリーナの姿しかない。

 トイレにでも行ったのかと周囲を見回す俺にカテリーナは静かに告げた。


「……依子は、帰ったわ」

「帰った? ホテルにか? だが今日宿泊するホテルは別だろう?」

 何を言ってるのかと眉を寄せるが、カテリーナは軽くため息をついて首を横に振る。


「ホテルにじゃないわ。日本によ」

「は?」

 カテリーナは何を言っているんだ?
 そんなこと、ありえるわけがないじゃないか。


 ……だが、事実ここに依子の姿はない。


「あなたのことは好きだけれど、ずっと一緒にいられる自信がないんですって。あなたとの恋は、辛いって言っていたわ」

「なっ……」

 絶句する。


 本人に言われたわけではないのに、心が(えぐ)られ絶望が忍び寄ってくる。
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