強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
 でも、腕の力を弱めケントの右手が頬を撫でる。

 視線が合い、見たことのないほど真剣な目とかち合う。


「依子……俺は、お前が好きなんだ」

「っ!?」

 言葉が出てこない。


 聞き間違いじゃなかった。

 確かに言ってくれた。

 私がケントの口から聞きたかった“好き”という言葉を。


「今までちゃんと伝えていなくてすまなかった。……その、自分でも言っているものだと思い込んでいたんだ」

 重ねて謝罪するケントに、私も慌てて謝る。

「私こそごめんなさい。ちゃんと、聞くべきだったのに。怖くて、聞けなくて、結果あなたから離れようとしてしまった」

 ごめんなさい、ともう一度謝罪の言葉を紡ぐ。


「依子……」

「でもその、本当に私で良いの? 私、あなたのウェヌスになれるとは思えないんだけど……」

 ケントは私が聞きたかった言葉を言ってくれた。
 私が彼の隣に自信を持っていられる言葉を。

 でも、それでも私はケントが望んでいた女神になれるとは思えなかった。

 目の色髪の色は仕方がないとしても、あの絵画のように神秘的でも官能的でもない。
 体つきだって絵画と比べると貧相で、容姿だって美しいとは言えない。


 好きだと言ってもらえて嬉しいけれど、彼が望んでいた女神にはなれないと思う。
< 167 / 183 >

この作品をシェア

pagetop