神、恋に落ちる
その頃の白羽━━━━

「ヤバい…トイレ行きたくなってきた」
緊張している為か、トイレが近い。
こんな部屋に一人でいて、緊張しないなんて無理な話だ。

白羽は静かにドアを開けた。
すぐ外に、組員が待機していた。
「ダメっすよ!ここから出たら……」
「あ、いや、お手洗いに行きたいんですが……」
「わかりました。こっちです」
トイレまで、誘導してくれた。

「すみません。お待たせして……」
トイレを済まし、廊下に出ると先程の組員が待っていた。

「じゃあ…さっきの部屋に…!」
「はい」

組長室に戻っていると、突然ドンッ…!!と大きな音がなった。
何かが壁にぶつかったような音だ。

「え!!?な、何!?こ、怖い…
あ、あの!命さんは、どこですか!?
命さんに会わせてください!!」
軽いパニックになっている、白羽。
組員のジャケットを掴み、すがるように訴えた。

「無理です!あんたは見ない方がいいし、神にも言われてる。とにかく、部屋に戻ってください」

こんな状況で、あの部屋に一人でいろと言うのか?
白羽にとっては、恐怖以外の何物でもないのに……

「お願いします!じゃあ、せめて外に出してください!黒崎さんに連絡して、車で待ってます!」
黒崎がいる車の中なら、まだ安心できる。
白羽は、建物の外に向かおうと出入口に向かった。

「それもダメなんだよ!!
あんた、神の女なんだろ!?
だったら、わかるはずだ!
あの方が、部屋で待ってろっつたら“そこ以外”は認められないんだ。あの方に“例外”なんて通用しない」

そう言われてしまっては、何も言い返せない。

だって、白羽は命のことを何も知らないのだから……

いくつもの店やマンション、土地などを持っている富豪。
周りから“神”と呼ばれ、誰も逆らえないこと。
とても物腰が柔らかいが、どこか内に秘めていてそれを簡単に見せない。
征服欲と独占欲が強く、嫉妬深い。
催眠術ような声とトーンで白羽の心を支配し、苦しいけど愛しいキスで白羽を“神石 命”の中に引きずり込む。
白羽を抱きながら名前と愛の言葉を囁き続け、けっして口唇を離さない。

それしか、知らない━━━━━━
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