君に逢える日
「急に声掛けられて逃げた? 椛、何してるの?」

 いつもの服に着替えて、住処に戻ったら燈が待ち伏せしていて、今日の出来事を話したら、この反応だ。

 私もそう思うから、何も言えない。

「というか、私が一番驚いてるのは、一度も話したことがないってことなんだけど。それ、会ってるって言うの?」

 言わない。言っていいわけがない。

 もう本当に言い返せないでいたら、燈の大きなため息が聞こえてきた。

「それでよく、私に『好きな人がいると楽しい』的なことが言えたね」

 燈は呆れたように言う。

 燈の言う通りだ。今思えば、偉そうにしていたことが恥ずかしい。

「でもなんで、話しかけたりしなかったの? 鬼であることを隠して人間に紛れに行くくらいの度胸はあるのに」

 ここまではっきりと言われて、さらに言われるかもしれないことを話すのは、なんだか嫌だった。

 だけど、燈の真っ直ぐな視線がそれを許してくれなかった。

「……私が人間じゃないって知られると、嫌われると思ったの。私はそれが怖くて、遠くから見てることしかできなかった」
「で、向こうから声をかけられて逃げた、と」

 燈が続けた言葉に頷く。

「椛は、逃げたことに対して後悔してるの?」
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