君に逢える日
 もう一度、首を縦に振る。

「でも、もう会えない」

 自分で言いながら、胸が苦しくなる。視界が滲んでいったことで、今にも泣きそうになっていることに気付く。

「でも、会いたいんでしょ?」

 燈の声は優しかった。そっと寄り添ってくれるような声に、涙が堪えなかった。

「会いに行かないの?」
「行けない……怖い……」

 今まで、人間と出くわして怯えた顔をされたことは、何度もある。もう気にならないという程、そんな顔を見てきた。

 でも、あの人にそんな顔をされてしまったら、私はきっと、耐えられない。

「じゃあ、私が会ってくる」
「え?」

 思わぬ提案に、間抜けな声が出てしまった。

「私が会って、椛のことを話してくる」

 私が戸惑っているのも気に止めず、燈は立ち上がる。

「ちょ、ちょっと待って」

 私は慌てて燈の腕を掴む。すると、燈はにやりと笑った。

「引き止めたってことは、自分で行くってことだよね」

 燈が座り直したから、私も隣に座る。

「騙したの?」

 そこまで怒ってはいないけど、私は頬を膨らませる。燈はそれを潰すように、私の両頬に触れた。

「背中を押したって言ってほしいな」

 物は言いようだ。

「大丈夫。椛が好きになった人間は、きっと椛のことを受け入れてくれる」
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