【完】震える鼓動はキミの指先に…。
第一章【それぞれの立ち位置】

溜息ばかりの毎日 Side:絢乃


「溜息…出ちゃうよねぇ…」


窓の外へ向けて呟いた言葉。
そんな私の小さな声に、すぐに反応したのは何時でも元気娘な神谷小桜(かみやこはる)。


「ん?あーやーの?どーしたー?」

「…んーん。何でもな〜い」


私の心の中は、果てしなくドロドロしている。
でも…それを悟られてはいけない。
誰にも。


……特に、小桜には…。

そんな風に思っていると、聞き慣れた声が此方に飛んできた。


「神谷ー!」

「うげ。石井ちゃんだっ。助けて!絢乃!」


ササッと私の後ろに隠れる小桜に、盛大に溜息が出る。

すると、小桜を呼び出した主がツカツカと足早に私の元へとやって来る。


「神谷ー…俺から隠れるたぁ、いい度胸だな…?」

「ひぃー…石井ちゃん!!怖い!顔が!」

「あぁん?」

「わーん!絢乃!助けて〜!」


ぎゅう。
ブレザーの背中の部分が、小桜の手の力でくしゃりとなるのを感じて、私はまた今日何度目かの盛大な溜息。


「先生…いい加減、諦めたら?」

「…志田ー。お前はちゃんとしてるからいーんだって。それに比べてこいつぁーなぁ?」

「……あんまり苛めると、嫌われますよ?」


意味有りげにそう言うと、先生は一瞬黙った。
切れ長の目に、心がざわめく。
でも、私は冷めた視線を投げつけて、後ろの小桜を守り切る事にした。


「……。わぁーったよ。おい、神谷!」

「はい!」

「今日の少テスト、最下位になった理由は後でたんまり聞かせてもらうからな」

「やだー…」

「やだー…、じゃねぇよ。ばーか。んじゃな。あ、そーだ」


ぽん


不意打ちで大きな手が、私の頭を撫でた。


「……っ」

「志田も、順位落とすなよー?」


そして、ひらひらと手を振って去っていく、先生。
それだけで、バクバクと乱れる心。


それでも…。


「あー…怖かった。絢乃、ありがとね!」


小桜の一言で我に返って、なんとか平常心を取り戻す。


「はぁー…」


毎日毎日、なんでこんなに、ブルーな溜息ばかりを吐いているのか…。



それは…。

………それは…。



私が誰にも打ち明けられない不毛な恋をしているせい、だ。


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