【完】震える鼓動はキミの指先に…。
そんな思いとは裏腹に…この翔太や未来のような距離感で、彼に近付けたらどんなにいいかと願うばかりだ。
小桜が羨ましい…そう思ってしまうことは、罪に問われるのかな?
本当の親友なら、彼女の行動を制限する権利なんてどこにもないのに、小桜が笑い掛ける度に、楽しそうに話し掛ける度に、心の中がぐちゃぐちゃになっていく。
触らないで。
笑い掛けないで。
そんな風に優しさを向けないで…。
小桜が未来が好きなことも、未来が小桜を好きで、そこら辺で拗れていることも、分かってる。
でも…なんで、貴方の「好き」を全部持っていくのが、小桜という存在なんですか?
私から、大好きな親友も、大好きな人も、一瞬で奪えてしまう、そんな貴方を一度でもいい…心の底から呪えたらいいのに。
「神谷ー…」
ほら、また。
態度こそ、"俺様"を被ってるくせに、蕩けそうな優しい声で、貴方はまた小桜のことを構うんだ。
あぁ…胃がムカムカする。
保健室でも行こうかな…いや、でも。
そこで、なんとか思い直す。
なんだかんだと、私も少しくらいは褒めて欲しくて、授業をサボることをしたことがないから。
軽くてもいい…あの大きな手に、一瞬でも触れてもらえるなら、徹夜でガリ勉をして具合が悪くなったって、意地でも成績は上位に食い込ませてやる。
苦手な運動も、何もかも。
そつなくこなす、スーパー女子でいたいんだ。
たとえ、それがただの独りよがりの我慢比べでしかなくても。
それでも…どうやったって、彼の視界の半分以下しか入れなくても、私は"ほんのちょっと"のご褒美の為に、鼻先に釣られた人参を追うが如く、精一杯無茶をする。
それで、体が壊れても、そんなのどうでもいい。
そんなに必死になって、如何するのかって?
勿論…彼の視界に映る人物を、全部私だけにする為。
分かってる。
それが到底無理だってことも。
あぁ…胃が痛い。
キリキリと痛んで、悲鳴を上げる。
私はここ数日でスカートのサイズが落ちて緩くなった、お腹の辺りに手を当てて黄色いチョークで書かれる数式を眺めた…。
カリカリ
コツコツ…
そんな単調なリズムに乗せて、黒板に書かれていく数式は、なんだか私の今の心を写し出しているようで、目をぱちくりさせてなんとかボヤけそうになる瞳を追いやる。
そんな、難解な問題じゃない。
要は、サッサとこの想いを告げて、振られてしまえばいいんだ。
それが一番手っ取り早い方法。
なのに、それが出来ないのは、私が心底弱いせいだろう。
「…っ。これは、マズい、かも…」
私は、急激な胃痛のせいで、ぐらぐら揺れる頭と、その額に薄っすら浮かぶ嫌な汗を感じながら、ぐったりと机に体を突っ伏し意識を飛ばした。