【完】震える鼓動はキミの指先に…。

それから、授業が終わるベルが鳴るまで、あやっちは眠り続けていた。

途中、やっぱり胃の辺りを押さえてうなされているあやっちを見て、泣きそうになった。


なんで、石井ちゃんはあやっちをもっと見てあげないんだろう?

オレだって、教師と生徒の間の壁がとてつもなく厚いことくらい分かるけど。


少しくらい、其処を見逃してもいいんじゃないかと思うわけで…石井ちゃんが神谷のことを好きらしいってことは、親友の須賀からなんとなく聞いていて、神谷が良くて、なんであやっちがだめなのか…それを、一度石井ちゃん本人に問いてみたい。


「はぁ…なんでまだこう、厄介なことに…」

「…ん。……あ、れ?ココどこ、って翔太…?」

「あやっち、どっか痛いとことか辛いとこない?平気…?」


寝ている間、ずっとあやっちの指に添えていた手をバッと素早く引いて、オレは極めて真剣に慎重にそう尋ねた。


すると、少しの間を置いてから、困った顔をしたあやっちはオレに向けてこう口にする。


「…なんか、疲れちゃった…」


と。

どうしようもない、焦燥感に囚われるのは何故だろう?

こんなあやっちを見たことないからか。
その瞳の奥に、初めてオレという姿が映ったように見えたからか…。

どちらにせよ、オレはぱくぱくと口を開くだけで、上手いセリフが全然出て来ない。

それを見たあやっちは、少し自嘲気味に笑って起き上がろうとする。


「…っ。いたた…」

「大丈夫…?」

「翔太ってば、そんな必死キャラだったけ?平気だよ、こんなの。………れば…」

「…え?なに?」

「ううん。なんでもない」


咄嗟に聞こえないフリをしたけれど…それははっきりオレの耳に届いてしまった。


『心の痛さに比べれば…』


だよね、そうだよね…。
納得していいものか分からないけれど、今のオレには曖昧に笑い掛けるしか方法がなくて、髪をかしかしと掻いてから、半身を起こしたあやっち背中にそっと手をやり、痛むであろう胃の心配をしつつ、靴を履くのを待った。


「あやっち、今日はオレと帰ろ?」

「でも…カバン…」

「ダッシュで取ってくるから!だから、待ってて?お願い!」

「んー…分かった。そんなに心配しなくても、逃げないから、ね?じゃあ、カバンよろしく」


くすり、と笑ってくれたあやっちに安堵する。
それならば、と超特急で教室に戻り、誰に説明やら言い訳をするつもりもなく、一目散でまた保健室へと戻った。


そのタイム、多分…たったの数秒…くらい。

ぜぇーぜぇー言ってるオレを見て、あやっちがまた笑ってくれて、本当に嬉しい。


ねぇ?
あやっち…。


どんな距離でもいいんだ。
キミの笑顔が見られるのならば。


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