【完】震える鼓動はキミの指先に…。
てくてく
初めての二人きりの帰り道。
あやっちの歩調に合わせて歩いていく。
モデルばりにスタイルの良いあやっちの隣にいても、図体だけはデカいオレが歩けば、やっぱりそれなりの身長差があって、なんだかカレカノになったみたいでそわそわした。
何か話題を、とさっきから考えているのだけれど、頭の中がもたついて良い小ネタが出て来ない。
こういう時、隆史なら上手くやるんだろうけど。
なーんて、そんなことを思ってあやっちの方を見ると、あやっちも同じタイミングでこっちを見たのか、少しばかり驚いている。
「翔太…?なんか変…」
「え…?あ、いや…ほら…ちょっと緊張するっていうか。初めて二人きりで帰るしさ」
そう言うと、あやっちもそれに気付いたのか、急に顔を赤くする。
「ちょっと!やめてよー?緊張伝染るじゃない!」
「えええー?オレのせいなの?!」
バシバシ背中を叩かれ、痛い痛いと訴えれば、あやっちはそのままあやすようにオレの背中を撫ぜる。
「ごめん、やり過ぎたねー…手形付いてたらどうしよ…」
いや、そんなに真剣に悩まれると、なんと答えていいのやら。
やっぱり、これって…惚れた弱味なのかな。
ちょっと眉がハの字になっているあやっちを、どうにかいつものあやっちにする為に、話題を変える。
ほんと、オレ…キャラ崩壊。
自分でもこんなオレは知らない。
まるであやっちが、オレも知らないオレを引き出していくみたいだ。
「そういや、こないださ。隆史のやつと会話してたら、周りのメンツが『漫才か!』とか言いやがってさー」
「それ、いつものことじゃないの?」
「あやっちまで!そんなこと言うの〜?別にオレは漫才したくて話ししてるわけじゃないんだけどなぁ」
ポリポリ
頬を掻きながら、呟くとあやっちは益々心配そうに、
「翔太って、ムードメーカーだと思ってたけど、何気に繊細なんだねぇ…」
と言ってきた。
そんな風に、半分上目遣いで俺を見上げながら小首を傾げるのはずるい。
ドキドキが溢れて、ニヤけそうになる口元を、片腕で隠す。
それを知る由もなく、あやっちはふと足を止めて、くんっとオレのブレザーの裾を引っ張った。
「…?どったの?あやっち?」
「あそこのカフェ、入んない?」
「え…?」
「パンケーキと珍しいメロンソーダがあるらしいんだけど、一回も入ったことないんだもん…だめ?」
だから…そんな顔をして。
ずるいよ、あやっち。
「もー…あやっちは強引だなー…どうしてもって言うなら、お付き合いしますよーだ」
「じゃあ、決まり!あ、ついでに翔太のおごりね?行こう!行こう!」
ぐいぐい腕を掴まれ、店の方へと引き込まれていく。
「え!オレのおごりとか!聞いてないって!」
そうは言いつつも、心は踊る。
あやっち、俺はさ。
あやっちがこんな風に笑ってくれるなら…なんでもしたくなっちゃうんだ。
だから、せめて俺の前だけではいろんな顔を見せてよ。
全部、全部受け止めたいと思っているから…。