【完】震える鼓動はキミの指先に…。
それから更に数日が経って、数学の時間に志田が授業中に気を失ったと、担任でもある石倉先生から聞いた。
俺はそれを聞いてすぐに保健室に行こうとしたが、教員の定例会議があって大人しく席に座り直すことしか出来ない。
完全に、俺のせい…だよな。
確かにあれからというもの、志田の顔色は日に日に悪くなっていたし、元々プロポーション抜群ではあったけれど、それ以上痩せたらヤバいだろ、と思うほど痩せて見えたから…。
けど、近くにいた保険医の笹岡先生が、にっこり微笑んできて、
「心配いらないわよ。成宮くんがいてくれてるからねぇ」
と言った。
「成宮…?…あぁ、あの成宮ですか?」
「そ。なんでも、倒れた志田さんをあっという間にお姫様だっこして、保健室にダッシュしてきたみたい。くすくす。青春て良いわねぇ」
俺よりも4つほど年上らしい笹岡先生は、さも楽しげにそう言うと、自分の机に向かってしまった。
成宮…。
あー…成宮ねぇ?
そういや、何度か志田と親しそうに話してんのを見掛けたな。
あの、俺でも手を焼くほどやんちゃなメンバーの中にいて、唯一まともなやつ。
なんで、そこのグループにいんだよ?と思うくらい、個性的なメンツに囲まれているのに、何処か捉えどころがなくて、気付くとクラスを明るくするムードメーカー的な、存在。
そんなやつが、あの志田とつるんでるのはあまり想像が付かない。
けど…。
なんとなくホッとている自分がいた。
俺よりも、成宮が志田には似合う。
そう、大人で狡くて酷い俺よりも、成宮みたいなムードメーカーで、人懐こいであろう存在の方が、絶対に良いに決まってる。
そこまで考えて、口の中で舌打ちを転がす。
結局、自分可愛さで動いてんのな、俺。
けれど、志田には申し訳ないが…。
今の俺では、距離を置くしか手立てがねぇんだよ。
情けねぇが、それでいいとも思ってる…。