【完】震える鼓動はキミの指先に…。

優しさの裏返し Side:真弦


なんだって、こーなるかねぇ?

成宮は、あれから…志田を保健室に抱え込んだという日から、元々番犬…いやナイト気質だったのが、それが更に加速している。


なんつーか、俺…滅茶苦茶悪者じゃねぇかよ。
その証拠に、少しでも志田に近寄ろうとするものなら、大型犬が威嚇するような視線で俺を捉えて、そんでもって俺から志田を守るように壁を作る。


志田はそれに気付いてない。
だからなのか…時折切なげな視線を俺に投げ掛けて来るくせに、俺から話し掛けられると身を固くする。


「はー…たまったもんじゃねーな」


別にこれはこれでいいのかもしれない。
このまま、志田が成宮を頼れば。
そんな関係になってくれれば。


そう願ってしまうのは…やっぱり大人の狡さなんだろうか?


「いーしーいちゃん!」


色々と面倒だな、なんて思っているとひょっこり俺の目の前に、可愛くて仕方がねぇ存在が現れる。
その表情がなんとも愛くるしくて、迂闊にも場所をわきまえずににんまりとした笑みを浮かべてしまう俺。


これが、ほんとの惚れた弱みってぇやつだな。
離れた席で須賀がシャーシャーと猫みてぇに威嚇してるけど、そんなもんかまうもんか。


「なーんだよ。神谷。そんなに俺に構われてぇの?」

「なっ?!ち、違うよー!ほら!ちゃんと今回は課題してきたしっ!提出するのに、持ってきたの!」


ぷん!

なんて、頬を膨らませるからついついこっちが構いたくなって、頬を突いた。


「ちょっ!やめてよー!ひどい!石井ちゃんてば!ちゃんと私ちゃんと課題したのに!」

「はいはい。わぁーった、わぁーった。んじゃ
まぁ…厳しく採点しとくから、放課後待ってろよ?」

「はっ?!やだよ!今日は綾乃と放課後デートなんだから!」


そこで、はたと志田の方を見ると懸命に口唇を食いしばって、下を向いていた。

やべぇな、これは。


「んだよ。しゃーねーな。んじゃあ志田と一緒に待ってりゃいいんじゃねーの?」

「やだ!石井ちゃん絶対に長いもん!…ココだけの話…最近綾乃なんか変だからさ、相談にも乗りたいんだよ〜」


ね?お願い!


なんて、可愛い上目使いされちゃあ、ぐうの音も出ない。


俺は、へいへいと神谷から課題ノートを受け取って、それをくるくると丸めると、神谷の頭をぽこん、と叩いた。


「あいた!何すんの!?」

「相変わらず、木魚並みのいい音だな」

「ひどい!」


こうやって、神谷への想いを少しでも見せ付けてしまえば、きっと志田は俺から離れて行くはず。

そう思っていたら、聞こえるか聞こえないかの小さな声で神谷が、


「…あんまり意地悪しないでよね?私にも…綾乃にも!」


と呟いて、驚いた。



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