【完】震える鼓動はキミの指先に…。
教師と生徒。
俺と神谷が良くて、志田と俺が駄目だなんて、そんなのはキレイ事かもしれねーが。
なんだかなぁ。
好きな女にも苦言をされるくらい、俺はひどい男かね?
てか、そういうとこだけ無意識にでも、勘がいいのはやめろってーの。
本気で、俺が志田をイジメてるみてぇじゃねーの。
いや、端からしたらそう見てるのかもしれねーけど。
…まぁ、自分が想うのは良くて、相手に想われるのは駄目、なんて…確かにひどい、か。
俺は元気よく「石井ちゃん、バイバイ!」と別れを告げられた後、日誌と神谷のノートと、その他の資料を片手に、今度は前みたいに幼馴染に突っ込まれねーように、廊下の端っこを歩きながら、教員室の自分の机を目指した。
なんつーか。
ほんと、きちんとしねぇといけないと思っているのに、どうにも最近らしくない思考回路ばかりが働いて、舌打ちを噛み砕く。
志田が笑ってる顔は見てみたい。
でも、それで俺が其方に傾くことはほぼゼロに近いと分かっているから…。
心を鬼にして、志田にはこの状況を理解してもらうしかないだろう。
好きな女は一人しかいないんだと…。
それが、俺なりの優しさ、だ。
恨まれても、呪われても、たとえ地獄に堕ちたとしても…。
志田、お前の気持ちに応えることは出来ない。
お前にゃ、俺よりも必ずイイ男がいるから。
それを伝えるべく、俺はどうするかとしばらく思案した。
「あ…」
そこで、思い付いたのは成宮の存在だった。
どっからどう見ても、志田を好きなアイツならば…俺をどこまでも非難して、志田を守るべく行動を何かしら起こすはず。
そして、それに便乗して…俺は志田から離れる。
こんなガキでも書ける筋書きに、果たして今時の生徒が乗るかは正直分からないが…。
ノルかソルかは、相手次第。
人生、ここまで来るとギャンブルだな。
と、そこまで考えて…深い溜息を吐いた。
傷付くのは、俺一人でいい…なんざよく言ったもんだよな、俺も。
本当は傷付くのが誰よりも怖いだけじゃねぇの?
「…ったく。やんなるねぇ」
呟きと同時に、無性に煙草が吸いたくなって、早く教師の面から、ただの大人に戻りたいと切に思った…。