【完】震える鼓動はキミの指先に…。
第四章【嘆きと祈りと後悔と…】
好きという疑問 Side:綾乃
私は、なんでこんな所にいるんだろうか?
目の前には満面の笑みの親友小桜と、どうやら機嫌のいいらしい幼馴染の未来。
そして、私の隣には…るんるんと鼻歌を歌う翔太。
なんなの、これ?
そうは思うけど、三人が凄く和やかに会話を進めているから、不満を口に出す訳にもいかず…。
や、別に…この状況に不満はあんまりないけども。
「あやっち、あやっち、ストロベリーのミルクレープにピスタチオのソースだって!これ一緒に食べよ?」
「は?翔太が一人で食べたらいいじゃん!」
「えー!でも、あやっちこないだコレ食べたいっ…もがっ」
「分かった!食べる!食べるから、黙ってっ!」
そんな、やり取りを見て未来は何だか意味深な笑みをこちらに投げてくるし、小桜は楽しそうだし。
確かに、小桜と放課後デートするって言ったけど、昇降口でバッタリ未来と遭遇するとも、話の流れで未来が仲間に入るとも、更には校門の所でロードワークして来た翔太に遭遇して一緒に行きたいと言われるとも思っていなくて…。
なんだかんだとわちゃわちゃしながら、着いたお店はこの前翔太と二人きりで入った所で。
翔太はあの時売り切れで食べられなかったメニューをここぞと言うばかりに、一緒に食べたいなんて言い出して…。
私はそれが気恥ずかしくて仕方なくて、何より目の前で微笑む二人になんて思われているのかが心配で、翔太の口を塞いで黙らせるとこほん、と一つ咳払いをしてから呼吸を整えた。
「じゃ、じゃあ…コレ、ね?」
「あやっち、飲み物は?ハーブティーにしとく?」
「え…?」
「んー…ほら、この前も…って、なーんでオレの口、塞ぐのー?!」
「もー、翔太うるさい!…でも、うん、まぁ…飲み物はハーブティー、かな?」
バッチリ、二人でこのお店に入ったことがあることを知られてしまったけれど、なんでか二人とも…特に小桜が茶化してくることはなくて、それが余計に気不味く気恥ずかしさに拍車を掛ける。
……なんか、私。
皆に心配されてる?
そっか、それだけ…負のオーラが外に漏れてしまっているってことか…。
「ふぅ…、」
「あやっち?もしかして…オレ、邪魔だった?」
「…え?あぁ、そんなことないよ?またこのお店に来れて良かったし。…楽しいし?」
「…あやっち、顔赤い」
翔太があまりにも雨濡れわんこのような目をするから、思わずそう答えたら、ぶわっと恥ずかしさが増して、顔が赤くなった。
それをすばり指摘されて、私は翔太の手をつねる。
「いたっ!ごめんー!あやっち、ごめんてば!」
「じゃあ、何も言わずに食べてよ、もう!」
ぱたぱたと熱くなった頬を手で扇いで、ふと前を見ると…小桜がほんのりと頬をピンクにしてる。
何故か、と未来の口元に視線をやると、なんとクリームの付いた小桜の指にキスなんかしてるじゃないか!
「未来!小桜!目の毒!」
「「なんで…?」」
はぁ…ほんと、こういう所が似た者同士と言うのかなんなのか…。
私は、一人翔太の言動に振り回されてるこの現状に頭を抱えながらも、目尻をくしゃりとさせて、楽しそうにテーブルに届いたミルクレープを取り分けてくれている翔太に視線を戻して、彼とはこんな風に出来ないんだということを痛感していた。