【完】震える鼓動はキミの指先に…。
そして、私は体育館の翔太が一番見やすい位置に、何気なく座った。
ギャラリーから見るコートは、普段何か特別な集会か、はたまた雨天時等の体育くらいしか使わない私にとって、なんだかとても新鮮で、更には神聖な場所だと感じた。
それはきっと、いつもは見せない真剣な目をした翔太がそこにいるからだと思う。
まるで、しなやかな動きをするヒョウを思い起こさせるような、翔太の姿。
今年が最後の部活になる。
その、最後の試合が間近に迫っていて、周りのメンバーの緊張感はただならない。
そんなピリピリした緊張感の中で、的確なサインを送って、勝利を重ねていく翔太のチーム。
「キャー!翔太ぁー!格好良いー!」
そんな黄色い声援に耳も貸さず、何度もアタッカーとしてスパイクを決め、時にナイスアシストをする。
長身を活かしたブロックやパス。
それらをここぞとばかりにこなす翔太は、私も素直に格好良いと思った。
「ナイッサー!」
「ナイスキー!」
「ナイシャッ!」
「ナイスファイーーッ!」
もう、大分聞き慣れた掛け声がコートのあちこちから飛び交うごとに、自然と私の気持ちも高揚して、きゅっと手を握り締め心の中で何度も翔太を応援した。
本当に、それくらい…バレーボールをしている翔太はキラキラと輝いていて、眩しいくらいで…。
翔太の行動をここ最近、ずっと身近で見てきたけれど、本気で翔太は捉えどころがない。
だけど、…それなのに、私対してはバカみたいに分かりやすい。
あの時、「好き」だと言われて、上手くそれを交わせなかった私に対して、怒るわけでも呆れるわけでもなく、ずっと傍にいてくれて。
「なんでもいいよ。あやっちのストレス発散になるならとことん付き合うから」
とか、イケメンスマイル付きでサラリと言うから…。
私はまた一つ…翔太の優しさに甘えてしまうんだ。
それが、どれだけずるくて、どれくらい最低なことだと分かっていても…。
なんとかして、自分のがんじがらめな思考から逃れようと、翔太の存在を利用している、んだ。
ごめんね、なんて謝ったらきっと、翔太は悲しい顔をして「全然いいのに」なんて、言うんだろうな…。
泣きたくなるほど優しくて、誰よりも慈愛に満ちて私に接してくれる人。
そんな翔太を、心の底から好きになれたら…頼れたら…どれだけ心が晴れるんだろうか?
「はぁ…」
また、少し前とは違った色の溜息を吐いて、私は未だコートの中で爽やかな汗を掻いている翔太の姿を見ていた…。