【完】震える鼓動はキミの指先に…。
好きなのに、好きだと言えない、こんな片想いな恋を自分がすることになるなんて…今でも信じられない。
それなのに。
どれだけ、私が彼を見つめても、彼は私には振り向かない。
いや…たとえ振り向いたとしても、それは本当にただの先生と生徒という関係の延長線。
「かーみーやー!」
今日も今日とて、先生の小桜を呼ぶ声は、聞きたくなくてもこの耳に入り込んでくる。
嫌だなぁ…。
くったりと机に突っ伏して、少しコンプレックスのひょろっと伸びた足を組んでから、手を机からだらんとすると、上から低くて心地よい声が落ちてきた。
「あーやっち」
「……なに…?」
「あららぁ〜随分ご機嫌斜めだねぇ」
「うるさい…」
長い長いストレートの髪を、優等生みたいに肩から緩く編んでいる私は、顔を上げた瞬間にするりと緩んだそれを片方サラリと解いて、もう一度編み直す。
それを見ていた成宮が、いきなりむんずと私の手首を掴む。
「ちょっ…なに?」
「えー…?勿体無いなーって?」
「だから、な、に、が?」
「髪。そのままで良くない?」
良くない?と言われましても…。
私がこの髪型にしているのには理由があって…。
「絢ちゃん、小桜見なかった?」
「あ。未来、小桜ならさっきトイレに行ったと…思う」
「…ふぅん?分かった。ありがと、あ、そうそう。小桜が絢ちゃんと髪の長さが同じになってきたって喜んでた…」
「…そっかー…うん、そだね」
……そう。
先生の好きなタイプを噂で聞いた時、「ストレートの長い髪の女が一番ドストライクだ」と知って、それから私は髪を伸ばし始めたのだけれど…。
既に私より先に長くて綺麗なストレートの髪型だった小桜。
それを、愛しそうに撫でて、
「神谷はそのまんまストレートにしとくのがいいわ」
と、あっさり言い切った彼の顔は酷く優しくて、見事に撃沈したわけ、だ。
私はその時から、髪を結ったままでいる。
というか…小桜と一緒の髪型にするのにはかなり気が引けて、なんとなく小桜の真似してるのか?と思われるのも怖くて、どうしても出来なかった。
多分、先生はそんなこと微塵も考えないだろうし…ってそれはそれで悲しいけども。
私は小桜が大好きだから、傷付けないように何時も、
「未来が間違えたら面倒臭いから、結いてる」
とか、目一杯の嘘を付いて、こうしているんだ。
なんたって、小桜は隠れマドンナとか言われるほど、大人っぽくて…。
だけども、天性の明るさのせいか可愛らしさも兼ね揃えている。
神様は天に二物を与えないとか言うけど…そんなのは真っ赤な嘘だと思う。
あぁ…こんな風に思ってしまう自分が、私は大嫌いだ。
「はー…」
そして、色んな想いを詰め込んだ溜息は、今日も自分の心に黒い染みを作ってく。
如何しても、拭えない…感情。
なんなんだろう?
この毒々しい想いは?
恋って、もっと淡くてほわほわしていて、温かいものだと思っていたのに。
今、私の目の前にある恋というモノは、本当に誰にも曝せ出せない。
ドス黒い溜息ばかりの毎日。
こんな日常は、早く終わって欲しい。
そう、願うばかりだった。