【完】震える鼓動はキミの指先に…。
キミは一人じゃない… Side:翔太
少しずつ少しずつ、最近あやっちが、オレに心を開いてくれている気がして、柄にもなくテンション爆上がりな、オレ。
昨日の帰り道。
何気にデートみたいな放課後を過ごした。
ゲーセンで、自分の好きなキャラクターを見つけた時のあやっちは、少し幼くて。
雑貨屋で真剣にプレゼント選びをしている姿は、逆に大人っぽくて…。
不意に呼ばれて、ネックレスの中を覗いてみてくれと言われた時は、自然な流れてあやっちの手の中にあるネックレスを見ちゃったけど…。
ふわっと香った甘い香りと、長いまつ毛にドキドキして、動揺を隠すのに苦労した。
だって…。
「ほんと、あやっち…可愛過ぎでしょ…」
ことん…
そんな音を立てて、口から落ちた言葉は、どうやら隆史の耳にだけはしっかりと入っていったようで…。
「くぅー!応援してるぜ!青年!」
と、バシバシ背中を叩かれた。
ったく。
隆史のやつ。
あやっちの手跡…っていうか、温もりの上にベタベタ触りやがって。
あとで、シメる。
そんなちょっと物騒なことを考えつつも、視線は忙しくあやっちを探してる。
あー…。
ちょっと視界にいないだけで、こんなの恋しくなるなんて…。
「どこの、初恋もまだな中坊だよ」
と、セルフ突っ込みをした。
だって、"泣かないで"としか、いつも祈ることしか出来ないから、少しでも笑ってくれたら、といつも願うばかりで。
「はあぁー…全然オレらしくない、てか、今までのオレって何?」
初恋なんて、もう随分前に済ませて終わっていると思ってた。
だけど…。
「これじゃあ、…まるであやっちがオレの初恋の相手じゃん」
そんな呟きを零して、あまりにもそれが気恥ずかしくて、かしかしと髪を掻いた。
あやっちを幸せに出来るのが、自分であればいいのに。
それなのに、今はまだそれが出来なくて…。
もどかしいとは思うけど、やっぱり好きなコの幸せは自分の幸せに繋がる、から…。
「…好き、だよ…?あやっち…」
やっと、遠くに見付けたあやっちの背中に向かって、オレは無意識に声に出してそう呟いていた。
でもなんとなく、その背中が悲しみを背負って、苦しんでいるような気がして、胸の中がざわざわと揺らめいた。
あやっちを苦しめる相手は、この場合一人しかいないから…。
オレは、体育館のドアから偶然にも、教室の廊下を通過していく石井ちゃんを見掛けて、その後を追うためにボールをメンバーのパスすると、走り出した。