【完】震える鼓動はキミの指先に…。
ほんの少しの後悔という苦味 Side:真弦
煙草を吸ったあとのような、苦味。
好意を持ってくれてるヤツに、こう思うのは心底ひどいとは思うが…。
はっきり言って…今の俺にとっては重くて迷惑以外のなんでもない。
それが、可愛い生徒の一人だとしても。
…それが、好きな女の親友だからこそ。
「石井ちゃんて、…何気に子供だよね」
俺よりも2、3センチは高いだろう目線が、冷ややかに俺を見下す。
「あぁ"?なんだよ、唐突に」
そう言ってから、茶化そうとした俺に向かって、成宮はこう続けた。
「『好き』ってさ、そんなに簡単なことじゃないよ?あやっちの気持ちも、多分石井ちゃんの気持ちもね。だから、面倒くさいとか思ってんのかもしんないけど。ただ、曖昧に流してあやっちのこと傷付けるのだけは、オレ許さないから。その辺、"大人"なら分かってくれるでしょ?」
じっと、人の目を見つめたまま視線を一度も反らすことなく、そう言い切った成宮は、それ以上なんの用もないと言った感じでへりゃりといつものように笑う。
「ま、あんまりいい加減なことしてると、痛い目遭うよ?」
とだけ言って、俺の横を通り過ぎて行ってしまった。
取り残された俺は、
「はぁー…。須賀とはまた違った意味で強敵、だな…」
と、深い溜息と共にそう独りごちてから、頭をがしがしと掻いた。
本当に、色んな意味でハゲそうだ。
成宮に言われたことは、何気に的を得ているかもしれない。
その通りなのかもしれない。
なんだかんだ理由を付けて逃げているのは、俺の方で。
そんな俺こそが、ガキなのかもしれなかった。
まぁ、沙弥香にも散々『あんたって本当にお子ちゃまよね』
なんて言われてるしな…。
「あーぁ。つまりは、全部自分でなんとかしろってか」
確かに自分で撒いた種だ。
自分でカタを付けなきゃなんねぇのは、どこかで分かっていたこと。
けれど、それをしなかったのは…。
「こーんなイイ年した大人が、今更"初恋"とか。そんなの格好悪過ぎて、言えるわけがねぇーだろうよ」
ぽつり
口から零れ落ちた言葉は、不意に自分の目の前に吹き抜けた風に運ばれて、どこかに散ってしまった。