【完】震える鼓動はキミの指先に…。
キツい助言 Side:真弦
「石井ちゃん、ちょっとこっち来て!」
なんて、呼ぶのは最愛の女…。
まぁ…いつの間にか、殆ど須賀のもんになっちまったがな。
「なーんだよ?」
「なーんだよ?じゃないでしょ!んもー!」
そう言って、地団駄を踏むような可愛い仕草をしてから、俺にとっては今一番の痛い所を突く神谷。
「綾乃のことですぅー!本気で怒るよ!?」
「あぁ?別にお前に怒られるようなことしてね…」
「してるね!だって泣いてたもんっ!あの綾乃が!」
びしっ!
俺の顔を思い切り指差して、神谷は息巻く。
「綾乃は勝ち気に見えて、本当はすっごい繊細なの。それを石井ちゃんは全然分かってない!」
「…って言われてもなぁ…俺ぁ何もしてねぇよ?」
そうとぼけるも、神谷の怒りは収まる所かより一層激しくなって…エスカレートしていった。
「鈍感な私でも分かるの!綾乃がなんかおかしいのは、石井ちゃんと私のことだって…それなのに、綾乃は何も言わない。ううん。何も私に言わせないようにしてくれてる…石井ちゃんだってそう感じてるんでしょ?!」
見る見るうちにアモーンド型の瞳からじわりと涙が浮かんでくる。
やべぇな…。
こんなん、須賀に見つかったら…。
「石井ちゃん、何小桜泣かしてんの?怒るよ…?」
あー…めんどくせーな。
「わぁーったよ。俺が悪者なんだろ?それでいいって…で?お前らは、俺にどうしろって言うんだよ?」
ジッと見つめて来る四つの瞳から逃れるようにして、降参、降参、と手を上げると…神谷じゃなくて、須賀がおもむろに切り出した。
「解放してあげて」
「…は?」
「あやちゃんは、石井ちゃんがわざと自分のこと傷付けてるって、とっくの昔に分かってる。だから、解放してあげてよ」
「〜〜…」
「石井ちゃんがどんな気持ちで、小桜を好きかは一応知ってる。でも、それであやちゃんを傷付けんのは、見当違いだから」
「は、」
ぴしゃり、言い放たれたセリフに思わずから笑いが漏れそうになった。
けれど、それはカチカチとした硬い石みたいになって、喉元から出ていくことはなかった。
「約束、して?もう…綾乃のこと泣かさないって」
「と、言われてもなぁ…」
「あやちゃんには、あやちゃんを大切に想ってくれてる人がいるから…だから、石井ちゃんはこれ以上、教師以外の顔を見せちゃだめだよ…」
キツいキツい助言。
それは、【大人対応】として、自分の気持ちを押し殺すってことになる。
けど…。
「……分かった。そうするよ」
俺は小さく頷いて、確かな約束を交した。
「ぜぇーんぶ、それ以上でもそれ以下でもねーんだかな…」