【完】震える鼓動はキミの指先に…。
第六章【震える鼓動はキミの指先に…】
止まらない気持ちはあなたへと Side:綾乃
『好き』
それが翔太に対してと、彼に対して生まれたものとでは全く別なものだと知ったのは…多分、翔太のお陰。
強い強い想いで、優しく包み込んでくれて…こんな、気持ちをグラグラと揺るがせる、卑怯極まりない私なのに、一途な気持ちを与えてくれる翔太。
そんな翔太にどんどん甘えて、どんどん深みにハマってる私。
彼へと続いた道は、遥か昔に閉ざされたようだった。
あんな風に、人の心を傷付けて…いくら小桜が好きだからと言っても…そんなやり方はないと思って、あの日私はズタズタになってしまった気持を、押し殺すようにして翔太とお揃いのキーホルダーを手にした。
そうしたら、何かとてつもない気持ちが競り上がってきて…涙が止まった。
関わり合わなければいい。
視界にさえ入れなければ。
この心に感情さえ生じさなければ、それで…。
勿論、一度は好きになった人だから、そうそう簡単に忘れることも、嫌いになことも、ましてや忘れることなんか出来っこないのは重々承知。
だって毎日顔を合わせるんだもん、否応なしに意識を無にしなければ、すぐに反応してしまう。
彼を想って泣くのは、もうやめよう。
彼を追って傷付くのは、もうやめよう。
私は、家の鍵等を付けたふくろうさんのキーホルダーを、一撫でしてから決意を固めた。
どこで、どんな風に道を分岐するのは、自分次第。
きっと、彼はそれを見据えての行動を起こしていたに違いない。
今の私には、そう言い聞かせる他術はないけれど、最後は…彼の印象を良くして卒業したいとは思っている。
「はぁ…翔太のお弁当、気合い入れよ」
ぽろりと零れた言葉は微笑みを含んでいて、なんだか心の奥をほくほくと温かくさせる。
こんな気持ちは知らなかった。
でも、翔太がくれるものなら、嫌な感じはしない。
逆にわくわくして、浮足出したくなるような、くすぐったい気持ちでいっぱいになる。
「これが…好きってことなのかな……」
やっぱり、まだ…好きってなんなのかよく分からない。
でも…翔太を大切にしたい、翔太を笑顔にしたい、そう思うのは本当のことだから。
「そっか…いつの間にか、私…翔太のこと、好きになってたのか…」
すとん
自分の心に素直に落ちてきた想い。
妙に納得してしまい、私はチラリと翔太の方を見た。
すると、いつから見ていたのか翔太はこちらを向いていて…。
「…っ?!」
にっこり微笑んだ、翔太としっかり目が合ってしまい、慌てて下を向いた。
もう…なんで、あんな柔らかい顔をして笑うの?
ドキドキして、気持ちが止まらなくなっちゃうじゃん。
これじゃ、翔太を意識してるのバレバレじゃん。
……それ、も……。
アリなの?
まだ分からない、自分の胸の中。
止むことのない、降り注ぐキラキラした気持ちを、大切に掴んで…私は頭の中で何が一番喜んで貰えるか、一生懸命お弁当のシュミレーションをした。