【完】震える鼓動はキミの指先に…。

そして、試合前日。
私が明日のお弁当の材料を求めて、帰り道にスーパーに寄ろうと、メモを持って校門を一人で出ようとしていると…。


そこにロードワークから戻って来た翔太が、ひょっこり私のメモから顔を覗かせて来た。


「あーやーっち!」

「わぁっ」

「んむー…そんなに驚かなくても〜」

「しょ、翔太が驚かしたんでしょ?!」


あまりにも、タイムリーな翔太の登場に、ぐしゃりっとメモを握り締めてしまい、その動揺をなんとかしてねじ伏せたくて、少し大きな声でたしなめると、翔太は楽しそうに私の周りを回って、


「あやっち〜!明日、オレ頑張るね!頑張るね〜!」


と言って来る。
その姿が、本当に毛並みの良い大型犬のようで、私は諦めの溜息をついてから、くすりと笑ってぐしゃぐしゃになってしまったメモを元に戻しながら、翔太に向かって、


「ん。頑張ってね」


と、言うと翔太はにこーっと満面の笑みを浮かべて、大きく頷いた。


なんか、今の翔太は格好良いというか…。


「可愛いなぁ」

「…へ?」

「や、翔太、可愛いなぁって」

「…はぃ?そ、それはぁ…!あやっちの方でしょぉー?!」


びっくりしたのか、声を裏返してそう言う。
そして、ポリポリと頬を掻きつつ、


「あやっちは…オレが可愛いって言うために、生まれてきたんだって…」

「………、…はっ?!」


翔太の大問題な発言…滅茶苦茶変な爆弾投下、をされて、困惑する私。

そして、自分の意図とは反してカァーっと熱くなる頬。


バッ


メモで隠したつもりが、ばっちり見られていてようで…翔太はにまにまと笑ってる。


「な、なによ?」

「かっわいいなぁー!んもー!」


わしゃっ


一瞬、抱き締められるのかと思うほどの勢いを付けてそう言うと、翔太は私の頭を思い切り撫でてきて、嬉しそうにまた、


「んー…可愛い!」


と、言った。


「もう!やめてよ!恥ずかしいじゃない!」

「んー…じゃあさ!これでもう終わるから一緒に帰ろ?…あー!今日こそは家まで送るからね!」

「ちょ、私まだ一緒に帰るなんて言ってな…っ」

「じゃ、ちょいっと待っててね〜」

「ちょ…っ」


くるりん、と私に背を向けて、たったったとリズムよく体育館へと走っていく。
その後ろ姿に、溜息をついて仕方なく待つことにする。

…一緒に帰るとか…。
なんかもう…今からドキドキが止まらなくて堪らないんだけど!

そんなことを思って、こつん、と足元にあった小石を蹴った。

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