【完】震える鼓動はキミの指先に…。
震える鼓動をキミへの囁きに Side:翔太
学生生活最後の試合に圧勝したオレたちは、それぞれ思い思いの人たちの元へと散らばった。
オレもその一人で、迷うことなくあやっちの傍に向かった。
でも、あやっちはオレを見た瞬間…悲しい顔をする。
「翔太の実力は、凄く分かってる。ずっと個人練習してたのも…。努力の賜物だって、全部分かってる…でも…。無理だけはして欲しくなかった!」
そんな風に責められて、頭が追い付かない。
「あやっち…?」
「そんな、指先から血が滲むほど…無理してほしくなかった…」
「…あ…」
「…ばか」
そう言って、テーピングしたオレの指先を見て、泣きそうになっているあやっちを前に、オレは言葉を失う。
「あの…あやっ…」
「翔太が、痛い思いしてる姿なんか、見たくないよ」
ぽろり
静かにあやっちの頬を伝っていく涙。
それは、はらはらと風に舞って、余計にオレの気持ちをざわつかせて行く。
「ごめん、オレ…どうしても、勝ちたくて…。あやっちの心配も考えずに…その…」
「勝ってくれたのは、素直に嬉しいよ?でも、やっぱり…悲しい…」
すん、と鼻をすすって泣き出したあやっちが、こう言ったら不謹慎だけど、ひどく愛しくて…。
「そんなこと言って…あやっちはどれだけ、惚れさせたら気が済むの…」
と、気付いたらふわり、と抱き締めていた。
あやっちは、抵抗もせずにまだ泣き止む気配がない。
「あやっち……?」
「私だって…っ。そう思ってる!」
「へ…?」
そこまで言うと、あやっちはオレのジャージの胸の辺りにおでこをこつん、と付けたままこう告げてくる。
「ばか」
「…あやっち…」
「こんな想い、知らないんだから…責任取ってよ…」
ドキドキと震えていく鼓動。
でも、あやっちはなかなか顔を見せてくれなくて、困った。
「あやっち、顔見せて?」
「やだ。今は無理…」
「そんなこと言ったら、オレもすごい顔してるから」
「うそ…翔太は絶対、真顔だもん」
ぐりぐり
そう言って、オレの胸元に顔を埋めたままのあやっち。
オレの顔はどんどん赤くなるし、ドキドキとした心臓の音が、全部聞こえてしまいそうで……。
どうにかなりそうだった。
わー…なにこのシチュエーション。
あやっち、ほんと可愛過ぎるでしょ…。
「あ、あやっち…?あのさ、あのさ…お…お弁当…なんだけど…」
「はっ!わ、忘れてた!」
がばっ
俺の一言で、勢い良く顔を上げたあやっち。
その顔は、本当に滅茶苦茶可愛い。
涙で潤んだ瞳。
真っ赤に染まった頬。
震えるまつ毛…。
「かわい…」
「っ?!ば、ばかっ!だからやだったのに!恥ずかしいなぁ、もう!」
思わずうっとりした声でそう呟いたら、しっかりはっきりあやっちに聞こえていたようで、ぽかりと胸元を叩かれた。
「でも、お弁当食べたいのはほんと。お腹ペコペコだもん」
きゅ〜
良いタイミングで鳴ったお腹に、顔を見合わせて噴き出すと、あやっちは大事そうに持ってきてくれた、大きな巾着を手渡してくれた。