【完】震える鼓動はキミの指先に…。

見つめられるだけの日々 Side:真弦

多分、いや…これは大人の勘で感じてしまうこと。


どうやら、俺は志田綾乃という、絶世の美女…な生徒に好かれているらしい。


見透かされるような視線。
それは、溶かされるような…甘い媚薬。

けど、今現在俺の心を揺さぶるのは神谷小桜だけで…。


「わー…不毛」


小さく小さく誰にも聞こえない様に呟いて、苦笑した。


今も、自分の作った少テスト中、無造作に髪を掻き上げ、口元にシャーペンを当てている、神谷の姿を視界に入れるだけで、胸がとくんと高鳴る。


いい年した男が、と何度も何度も思った。
それでも、諦めが悪いと言われたとしても…この胸の中を占めるのは神谷が大半で、自分でもやらかしたなと、そう感じている。


そんな、俺の気持ちに気付いてるらしい志田は、それも理解した上なのか、今日も俺の姿を自然を装って視界に入れては、熱を帯びた視線を送ってきている。


「はー…どーしたもんだか」


傍からしたら、一見他人事のように聞こえるかもしれないが、内心結構困っていたりするから…無駄に年食ってんなよ、自分…とか思うわけで。

普段の俺なら、軽くあしらうことなんざ、朝飯前ってな感じなのにも関わらず、神谷が絡むとどれもこれもが、みんなこれでもかと言うほどの勢いで、ペースを乱されてしまうのだから、たまったもんじゃねーっての。


あーぁ。
たかが、6つ7つ年が違うくらいの立ち位置なのに、教師と生徒という立場の壁が、厚く厚く立ちはだかっていく。


ほんとに、今更切ないとかそんな類の想いはないけれど…焼き切れそうな志田の熱視線から、逃れる術は今の所どこにもないと、そう思っている。


…逃げ場がないと、人間案外ちまっこくなるもんだな。


俺のキャラ、もしかして崩れ落ちたんじゃねーか?なんてそんなことを気に掛けて、苦笑した。

余裕?

んなもん、神谷を好きになってから微塵もねぇ。
まるで、ジェットコースターにぐるんぐるん回されてるみたいに、気持ちははっきり言って落ち着かない。


けどな?

これだけは、言っておく。


見つめるだけでも、見つめられるだけでも、いつかは必ず足らなくなるもんだ、人っつーのは。


別に道徳的な思考を持てなーんてことは、言わねーけど。


次から次へと欲が溢れ出てくるのは、仕方がねぇことなんだよ。
それが、本気の気持ちなら尚更な。


だから……。


ほんの少しでいいから、志田には小賢しさを持って、すり寄ってくれりゃあいいのに、と思う。


そしたら、多少残酷かも知れないが、大人の狡さで逃げ道を拓くことが出来るのに、と。


そんな風に、思っていたりするんだ。


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