【完】震える鼓動はキミの指先に…。
第二章【羨ましい距離感】
届きそうな…儚い距離 Side:綾乃
ぐんっ
手を伸ばしてみる。
けれど、自分の思った以上にはいかなくて…。
何時も、空を切ってだらん、と落ちてしまうんだ。
それが、苦しくて苦しくて堪らない。
席の近い未来が、くてっと机に突っ伏した私の方をじっと見て、こそっと呟いてくる。
「絢ちゃん、大丈夫…?」
「あー…うー…」
私は、それに対して微妙な顔をして唸り声を上げるだけ。
すると、こちらを向いた未来は、ヨシヨシと私の頭を撫でて来た。
「…ごめんね?」
「……え…?」
「んー…なんでもない」
なんとも言えない、神妙な面持ちでそれだけ言うと、そのままぽん、と1回大きな手を置かれて、未来は席を立ってしまった。
ほぼ、幼馴染と言っていい、未来の優しさにちょっと癒やされつつも複雑になる。
ぽん、か…。
気紛れに、彼が私の頭に触れるのは…何故なのか。
あまり期待はさせないで欲しい。
というよりも…。
私は酷いやつだから。
小桜の頭を撫でた手で同じように…いや、まるで別の熱で触れてなんか欲しくないのに。
それなのに、近くなるその瞬間を待ち侘びて、また手を伸ばそうとして失敗するんだ。
どうしたら、叶いますか…。
どうしたら、この距離は縮まりますか?
ねぇ、ねぇ、と何度も心の中で呼び掛けては、ぎゅーっと胸の辺りで拳を握り締めて、声にならない助けを求める。
そんなことをしたって、彼には絶対に通じることはない。
分かってる。
でも…。
分かりたくない気持ちだって、誰にでもあるでしょう?
…私、一体どうなるんだろう?
こんな風に、モヤモヤを抱えたままじゃ。
いつか、親友の小桜のことを、…嫌いになってしまう日が来るんじゃないかって、そんなことを思っては泣きそうになる。
涙を堪えるのには慣れてる、昔から。
だけど、彼に振り向いてもらえなくて、悶々とするこの状況を、どう打開して良いのか術が分からず。
最近では胃がズキズキと痛むんだ。
誰でもいいから、儚い距離を…この宙ぶらりんな気持ちを、壊して欲しい。
そう願わずにはいられない。
溜息もカラカラに乾いて、深呼吸でもしなければ酸素を体に取り込めない。
いっそ諦めがつけられればいいのに、それすら無理で。
彼の一挙一動に心がざわめき、切なさは最早倍々ゲームだ。
こんなドロドロな私のことを、小桜が知ったら多分彼女のことだから、自分の置かれている立場に困ってしまうだろうし、それで、何かの均等を崩してしまうのが嫌だった。
「あー…私、最悪だなぁ…」
小さな囁きのような呟きは、教室のガヤガヤに掻き消され、床の上にころん、と落ちた気がした。