【完】震える鼓動はキミの指先に…。

「あーやっち、何か凄い顔色悪いよ?」

「あー…そんな風に見える…?」


指摘された通り、ここ最近眠れない日々か続いていて、はっきり言って辛さは限界を既に突破していた。


ぐらぐら揺れる視界を、くいっと頬をつねることでなんとか制して、無理やり笑顔を作ろうとしたら、心配そうな声と共に冷たい手のひらがさらりと私の手を掴む。


「あんま、無理しないでよ?」

「…はは、そう出来たらいいんだけど、ね」


乾いた笑みはきっと引きつって、変な感じになっているだろうに。

この成宮という男は、そんな私の長い三つ編みを指で弄りながら、まるで自分も一緒に苦しんでいるという風な表情をして、また同じ言葉を紡いだ。


「ほんと、勘弁して。あやっちが倒れたらとか思うと…オレまじ心配だから」


じっ…


見つめてくるその瞳は、真剣そのもので…私はいつもとは何か違う、彼の視線から逃れるように下を向く。


なんで、こう…優しくされると泣きたくなるかな。

今の私、滅茶苦茶ちょろいじゃん。
隙だらけじゃん。


「成宮、私さ、そんなに可愛くないかな…?」

「…は?何言ってんの?あやっち。あやっちって相当男子から人気あんだよ?てか、その成宮って止めない?翔太って呼んでよー」


限りなく大真面目という感じで即答されて、私こそ鳩が豆鉄砲食らったような顔になる。
そして、最後の方のお願いには顔がじんわり赤くなった。


「…なんの冗談?え?それ笑えないんですけど?てか、なんで下の名前?」

「え…?それ、本気なの?…わー…あやっちてばめっちゃ天然さん…。…いいじゃん、下の名前呼ぶくらい、減らないし」


心底驚いたように、そう言うと、


「ほらほら、な、ま、え!」


と催促してくる。
それがあまりにもしつこいので、私は渋々下の名前を呼ぶことにした。


幼馴染の未来くらいしか、男子の下の名前なんて呼んだりしないのになぁ…。

どうも、コイツを前にすると調子が狂う。

「じゃあ、翔太サン?あのさ、いつまで人の髪触ってんの?」

結った三つ編みの先の方を、ずっと指でさらさらと弄る翔太を責めると、


「だってさ、あやっちの髪綺麗だし好きだし」


と、即答されてしまった。

こんにゃろう…翔太、お前の方こそ天然人たらしだな??

そう思いつつも、やんわり指を弾いてしっしっと遠避ける。


あんまり、私の心の中を見透かさないで欲しい。
これ以上は、ドロ沼だから……

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