はるか【完】
何かの、視線はあった。
私はそれを穂高関係だと思っていた。
だけど、それは、違ったようで。
莉子と一緒に校門をくぐった時、その人が私の前に現れた。「遥」と聞き覚えのある声に、全身の体の震えが止まらなかった。
何年、ぶりか。
もう10年以上は、たっている。
その人を見て、莉子を置いて走り出していた。走って走って、そいつが見えなくなるまで走って。
気づけば彼に電話をしていた。「助けて助けて」って。彼は言う。『どこだ』と。ちゃんとそれに答えられたか分からない。
とりあえず、「助けて」って言ってた。
コンビニの、裏の路地。そこに隠れるように、スマホに向かって「助けて」という私は誰がどう見てもおかしく。
息を荒くし、手にはスマホを持ったその人が現れた瞬間、ぶわっと涙が溢れだし。
その真っ黒な学ランに飛び込む。
いつかのように学ランを汚してしまう私の顔を覗き込んだその人は、「追われたのか?誰だ」と低くいうけど。
ちがう、〝そういうのじゃない〟。
「たす、け」
「何があった」
「たすけっ、」
「聞け」
「たす、」
「助けてやるから、言え。何があった」
黒い髪の彼が、私の顔をワシ掴む。
「──遥」と、彼と目が合った瞬間、またぶわっと涙が流れ。
「っ、あいつが、…!」
「あいつ?」
ピクリと、眉を寄せる。
「名前は? 知ってるやつか? 何された」
知ってる、嫌なぐらい、知ってる、
もう二度と会いたくなかった。
「い、や、ぁ、いやっ…」
「遥」
「あいつがっ、あいつが…!」
「落ち着け」
「たすけっ…」
「助けてやる、ぶっ殺してやるから」
「……っ、」
「落ち着け」
悪魔が戻ってきた。
私を殺しかけた悪魔が。
刑務所に、入れられていた、はずなのに。
忘れるはずない。
痩せていけど。
白髪だったけど。
シワが増えていたけど。
忘れるはずがない。
「父親?」
どうやって良くんに伝えたかも覚えてない。
「…ムショ…虐待」
私の言葉を、必死に良くんが理解しようとしてくれて。
「そいつに家はわれてんのか?」
分からない、当時の家じゃない。
だけどなんでここが分かったの?
場所も離れてるのに…
「わかん、な、い」
「殴ってくればいいか?」
「だ、だめ、あいつ、ほんとに、やばいのっ、良くん怪我しちゃう…!!なんで、っ、なんであいつが、この場所をっ…」
「…学校にいたんだな」
「家も、しられてる、かも、どうしよ、どうしよう…!」
「落ち着け、状況は分かったから」
何が分かったのか。
実の父親のことを怖いという私に、良くんは理解してくれたのか。
簡単に、理解してくれた彼は、学ランを脱ぐとそれを私の頭に被せてきた。
誰にも顔を、見られないように。
「今日はホテル泊まれ」
この時、良くんがこんなにも簡単に理解してくれたのか。
良くんも同じような〝家庭環境〟だと知ったのは、春休み中旬の事だった。
──遥はさ、
──優しい男が好きなんじゃなくて
──守ってくれる男がいいんじゃないの?
私はそれを穂高関係だと思っていた。
だけど、それは、違ったようで。
莉子と一緒に校門をくぐった時、その人が私の前に現れた。「遥」と聞き覚えのある声に、全身の体の震えが止まらなかった。
何年、ぶりか。
もう10年以上は、たっている。
その人を見て、莉子を置いて走り出していた。走って走って、そいつが見えなくなるまで走って。
気づけば彼に電話をしていた。「助けて助けて」って。彼は言う。『どこだ』と。ちゃんとそれに答えられたか分からない。
とりあえず、「助けて」って言ってた。
コンビニの、裏の路地。そこに隠れるように、スマホに向かって「助けて」という私は誰がどう見てもおかしく。
息を荒くし、手にはスマホを持ったその人が現れた瞬間、ぶわっと涙が溢れだし。
その真っ黒な学ランに飛び込む。
いつかのように学ランを汚してしまう私の顔を覗き込んだその人は、「追われたのか?誰だ」と低くいうけど。
ちがう、〝そういうのじゃない〟。
「たす、け」
「何があった」
「たすけっ、」
「聞け」
「たす、」
「助けてやるから、言え。何があった」
黒い髪の彼が、私の顔をワシ掴む。
「──遥」と、彼と目が合った瞬間、またぶわっと涙が流れ。
「っ、あいつが、…!」
「あいつ?」
ピクリと、眉を寄せる。
「名前は? 知ってるやつか? 何された」
知ってる、嫌なぐらい、知ってる、
もう二度と会いたくなかった。
「い、や、ぁ、いやっ…」
「遥」
「あいつがっ、あいつが…!」
「落ち着け」
「たすけっ…」
「助けてやる、ぶっ殺してやるから」
「……っ、」
「落ち着け」
悪魔が戻ってきた。
私を殺しかけた悪魔が。
刑務所に、入れられていた、はずなのに。
忘れるはずない。
痩せていけど。
白髪だったけど。
シワが増えていたけど。
忘れるはずがない。
「父親?」
どうやって良くんに伝えたかも覚えてない。
「…ムショ…虐待」
私の言葉を、必死に良くんが理解しようとしてくれて。
「そいつに家はわれてんのか?」
分からない、当時の家じゃない。
だけどなんでここが分かったの?
場所も離れてるのに…
「わかん、な、い」
「殴ってくればいいか?」
「だ、だめ、あいつ、ほんとに、やばいのっ、良くん怪我しちゃう…!!なんで、っ、なんであいつが、この場所をっ…」
「…学校にいたんだな」
「家も、しられてる、かも、どうしよ、どうしよう…!」
「落ち着け、状況は分かったから」
何が分かったのか。
実の父親のことを怖いという私に、良くんは理解してくれたのか。
簡単に、理解してくれた彼は、学ランを脱ぐとそれを私の頭に被せてきた。
誰にも顔を、見られないように。
「今日はホテル泊まれ」
この時、良くんがこんなにも簡単に理解してくれたのか。
良くんも同じような〝家庭環境〟だと知ったのは、春休み中旬の事だった。
──遥はさ、
──優しい男が好きなんじゃなくて
──守ってくれる男がいいんじゃないの?