私は幼馴染の双子の兄の方が好きなんです


西日に照らされた地獄の坂道を、私はお供を二人連れて歩いていた。



そのうちの一人は今朝ロッカーで会った弥生ちゃんだ。

みーくんがいなくなった後、弥生ちゃんを誘った。



もう一人は八木黒花(はちきくろか)という女の子。

ボブが可愛い、眼鏡の子だ。

私は彼女を八木さんと呼んでいる。

2年の2学期から編入してきたらしく、弥生ちゃん経由で知り合った。

どうして弥生ちゃんと関わり合いになったのかわからないくらい弥生ちゃんと対極の存在で、小柄でとても大人しく、若干挙動不審気味。

前の学校は偏差値70越えと、私なんかと違って、すごく頭がいい。

私と八木さんは一日一言喋ったら多い方で、そこには距離がある。

弥生ちゃんも一方的に話題を振ってるが、八木さんは相槌をうったり、聞き手に徹するだけで、見ている感じそれ以上の関係ではなさそう。





三人で横並びすると、八木さんが一番背が低く、一番大きいのは弥生ちゃん。

遠目から見て誰が誰か変わるくらい、私たちが三人並ぶとメリハリがあるらしい。



「ねえ、ねここ。今日はどうしてあいつらに弁当なんて作ってきてたの?」



弥生ちゃんが話題を作った。あいつらというのは、みーくんらのことだろう。

ちなみに、今ここに八木さんが一緒にいるけど、あまり話ができる子じゃないので、私と弥生ちゃんのうちわネタになりがちだ。



「うーん、みーくんらのご両親、ブラジルに一週間お仕事だっていうから」

「なるほどね。それで、ねここが作らされてたのね」



いつもは弥生ちゃんと一緒に昼ごはん食べてるのに、今日はみーくんたちと弁当を食べたから、疑問に思っていたのかもしれない。

弥生ちゃんは少し考えるそぶりをしてから、言う。


「でも別に、ねここがそこまで面倒見てあげる必要ないんじゃないの?」

「放っておけないよ」

「どうして?」

「だって毎日三食梅干しを食べようとしてたんだもん。誰かが作ってあげないと病気になっちゃうよ」


私がそう力説すると、弥生ちゃんはやれやれと呆れた様子を表す。




「じゃあコンビニ弁当でよかったじゃない。あんたのことだからそのために早起きしたんでしょ」


げっ、確かに。今思えばコンビニ弁当でもよかったよ......。

正直、今のコンビニ弁当は栄養も味もあるものが多いし。

みーくんらのお母さんから食費としてお金を貰っているけど、金額的にちょっと多いななんて思ってたんだよね......。

それって、つまり、コンビニ弁当を食わせろということだったのでは......。





弥生ちゃんはため息一つ。


「その顔は、そこまで考え及びませんでしたって顔ね」

「ううぐ、なんでわかるのお」




流石は幼馴染。

私の考えてることは筒抜けだったようだ。




「でもよかったんじゃない? 磨手に手料理を食べさせるためのいい口実になったんじゃない」

「や、弥生ちゃん、こんなところで私がみーくんのこと好きだって言っちゃだめだよ」

「言ってない言ってない」

「うがー、墓穴ほった」



私は周りを見回す。

道行く人はまるで無関心ですというように歩いている。

そこに知ってる人はいないようだ。



ふう、危機一髪だよ。

弥生ちゃんはニヤニヤしている。

そんな弥生ちゃんを見てると、恥ずかしさで身体が火照って、口元がゆるくなってしまう。



「よかったわね、知ってる人誰も聞いてなくて」


弥生ちゃんがそう言って、もうってしてしまう。




あれ......何か忘れてるような......。

あっ、八木さんが少し後ろで歩いてるんじゃない?

八木さんに聞かれたのでは?



私はそう思うと、いてもたってもいられなくなり、首をひねる勢いで身体を八木さんに向ける。 ちょっと首ねん挫した。

そんな軽業をした私をみて、ビクッと飛び跳ねた八木さん。

私が言いたいことを汲み取った八木さんは苦笑気味で言う。



「私は、聞かなかったことに......します」


八木さんは私と弥生ちゃんの会話に一度も参加してこなかった。

身内ネタのようなものだから入り込めないというのはあるけれど、もっと根本的な問題として、まだ出会って日が浅いというのがあると思う。

大人しくて可愛いし、消極的な子だけど、私もっと八木さんと仲良くなりたい。


経験上、恋愛話というのは、親睦を深める一番のテーマ。


これはそのチャンスかもしれない。




「聞いたことにしておいてよ......

 ううん、違う......もしよかったら私の話、聞いてくれるかな?」



私の返事に呆気にとられる八木さん。


「えっ、私でよければ......いいですけど。葵さん」


私は八木さんの手を取ってぶんぶん振る。

仲良しになる、最初の合図だ。


「ありがとう。黒花ちゃん」


私がそういうと、黒花ちゃんは赤面で俯いた。



「はいはい、ちょっといいかな」

二人の間に弥生ちゃんが割って入る。


「ねここ、黒花、あそこのカフェに寄っていかない? そこで親睦深めましょ」


私も、黒花ちゃんも了承し、カフェに寄っていくことになった。



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