私は幼馴染の双子の兄の方が好きなんです
「そういや、ねここちゃん、その腕時計ずっとつけてるんだね」
カレーライスを食べているまーくんが、私の右手首を見て言った。
「うん、あれからずっと着けてるんだよ」
私は腕まくりをして、自慢の腕時計をまーくんに見せびらかす。
「兄貴から貰ったやつだよね」
「うん」
「時間あってるの?」
「ふふーん、一分の狂いもございません」
飲み込むように食べてご馳走様したみーくんがソファーに寝そべりながら呆れたような口調で言う。
「そんなボロいの捨てて新しいの買えよ」
「やだよ、宝物なんだから」
「さすがに10年間毎日着けてるのはヤバいぞ」
その言葉には汚いという意味を含むのだろう。
「ちゃんと毎日拭いてるし、定期的にメンテナンスしてるよ」
「もう安らかに眠らせたれ。ファンシーショップで売ってる安物の子供用腕時計だろ」
「みーくんが私にくれたんだよ。そんな簡単に捨てられないよ」
そう、これはみーくんが10年前の水難事故の後、なくした腕時計の代わりに私に買ってくれたものなのだ。
あの日無くしたお母さんから貰った腕時計の代わりとして買ってもらった。
みーくんは何も言わなかったけど、私がまた川に探しに行かなくてもいいように、というみーくんの優しさがそこにはある。
流石にあれから10年経ったので、手放したところで川に探しに行ったりすることはないが。
じゃあお役御免って簡単に捨てられるものではない。
まーくんはみーくんを揶揄うように微笑んで言う。
「兄貴、本当は嬉しいんだよ。照れ隠し~照れ隠し~」
「ばか、ちげーよ」
「ねここちゃん、実は兄貴も、ずっと持ってるんだよ~ クマの......」
そういうとテレビのリモコンが飛んできて、まーくんの口にすっぽりハマった。
「んがんが」
「余計な事言うんじゃねえよ」
そういうとみーくんは居心地が悪いと言わんばかりに二階へ上がってしまった。
まーくんは口からリモコンを引っこ抜き、歯並びを確認する。
「ホント、兄貴は暴力的なんだから」
「みーくん、怒って出て行っちゃったよ......」
「いいよ、いつものことだから」
兄貴がそんな態度をとり続けると僕が取っちゃうから
とまーくんは小言を言ったが私にはどういう意味か分からない。
言ったあと、まーくんは考えるそぶりをしている。
......。
少し間が開き、まーくんが何か思いついたように話を切り出す。
「ねえ、ねここちゃん。明日の放課後、デートしてよ」
えっと、いきなりどうしたんだろう。
まーくん節では、デートは、買い物に付いてきてよくらいの軽いノリだ。
だから、それくらいなら断る理由がない。
「いいけど、どこに行くの?」
「それは、明日のお楽しみ」
明日の放課後、私はまーくんと出かけることになった。