私は幼馴染の双子の兄の方が好きなんです
放課後、校門で私はまーくんと待ち合わせをしている。
HRが終わってすぐ、私は教室を出た。
竹谷のせいで、全体的に5分遅れだ。
うらめしやー。
私が向かうと、すでにまーくんがいた。
まだ冬になってないとはいえ、寒くなってる中待たせてしまって悪いことしたなぁ。
「お待たせ―」
「待ってないよ、6限竹谷とは運が悪かったね」
「ホント、この曜日はいつも5分押すんだもん」
私の愚痴を聞いてくれたまーくんは笑顔で切り出す。
「じゃあ、そろそろ行こっか」
「うん」
私は、まーくんにどこに連れて行ってもらえるのか、まだ知らされていない。
ただ、行きたいところがある、見せたいものがある、とだけ言われている。
まーくんは「そんなに遠いところじゃないから歩いていくよ」と歩きだす。
電信柱の陰が幾度か私たちを通過したころ、オシャレなカフェやファンシーショップが並ぶライトトーンの街並みに出る。
「あっ、ここ女子の間で人気になってる店」
「女の子こういうところ好きそうだもんね」
「もしかして、行きたいところってこの辺?」
「うん、もうすぐそこだよ」
もしかすると、まーくんは1人で女の子が行くお店に入りづらいから、私を誘ってきたのかもしれない。
あっ、でも、それなら私に見せたいものってなんだろ?
「ここだよ」
まーくんが立ち止まった先にあったのは、この街並みに合わない古い土蔵建築だった。
「えっ、ここに入るの?」
「うん、ここに入る」
私は一歩後ずさる。
どうしてぇええ。
後ろには可愛いカフェが、その隣には可愛いレストランが、その隣には可愛い時計屋さんがあるのにぃぃい。
まーくんは営業してるか確かめるためなのか、ドアを軽くたたく。
「言ったでしょ、みせたいものがるって」
「そ、そうだね。ちなみにここってなんのお店?」
聞かなくてもわかる。あのホラーなフォントで「輪廻」と書かれた看板。
お化け屋敷だ。絶対そうに違いない。
まーくんは私にろくろ首見せたいんだ。
私が怖がってる反応を見て楽しみたいんだ。
まーくん。そんな子になるとは思わなかったよ......。
私が思考をかけ巡らせているとまーくんは答える。
「ここ? ここは居ざ......カフェだよ」
一瞬何か聞こえた気がするが、ここはカフェだというまーくん。
嘘だぁ。
「疑ってるでしょ?本当だからね。」
「うん......でも、まーくんを信じるよ」
そう言うと、古いドアがガラガラガラと開く。
「おっ、おっさん、来たよー」
まーくんがそう言った先には、まーくんよりも一回り身長が高く、ガタイが良く、頭に毛が一切生えていない、悪人面で、入れ墨が腕から首元まで入っていて......
私は思考を完全に失った。
「おお、坊ちゃん来たか」
「おっさん、頼んでたアレ、出来てる?」
「おお、めっさいいのが出来た」
「マジ、ねここちゃんもきっと喜ぶよ」
「その子が坊ちゃんの言ってたねここちゃんか? 可愛い子じゃないか。あの坊ちゃんにこんな可愛い彼女が......坊ちゃんも隅に置けんな」
「残念ながら......まだ付き合ってないのだよ」
「なにぃ、まだ付き合ってないだぁ? じゃあなに、まだ告白してないのか?」
「イエス」
「はあ、今時の子は奥手だと聞くが本当だったんだな。おっさんの時は、あれだよ、初手ホテルだよ」
「それは攻めすぎだって」
「脈ありならそれでOKなんだって」
――――――。
「じゃあ、そこの席に座っててくれ」
「はーい。ねここちゃんこっちこっち」
「......」
「はい、ねここちゃんは手前の席ね」
「......はっ、ここは??」
気が付くとまーくんとテーブルを囲っていた。
あれ、さっきまで私何してたっけ?
うーん。
......。
......。
思い出せないや。
私が首をかしげていると、まーくんが言う。
「もう少し待ってね、今準備してもらってるから」
「なんの準備?」
まーくんは微笑む。
「ふふーん。それは来てからのお楽しみ。」
すると、奥の暖簾をくぐって男の人が巨大な何かを持って現れた。
私の目にフィルターのようなものがかかっていて、男の人を見るとぼやける。
その男の人は私とまーくんの間に巨大な何かを置く。
パフェだ。巨大パフェ。
「おお、これが例の......」
まーくんも初めてみたのか驚いてる様子だ。
あれっ、この匂い......
私はよくパフェの匂いを嗅ぐ。
香辛料の香り。
パフェからするべきじゃない香りが漂っていた。
「ねここちゃん、これはね、カレーパフェなんだ」
――――――。