私は幼馴染の双子の兄の方が好きなんです
パフェの中盤のシリアルに差し掛かった頃。
「まーくん、よくこんなお店見つけたね」
「ここのおっさんとは幼い頃からの知り合いだから」
私はシリアルにスプーンを差し込む。
ザク。
底にたまったソースがシリアルにかかる。
このソースもカレーなんだね。
「へえ」
「ほら、たぶんねここちゃんも知ってる人だよ」
ほえ、私も知ってる人?
頭の中で検索をかけてみるが、そんな人見つからなかった。
「私も知ってる人?」
「ほら、小学校の時に山田くんっていたじゃん。兄貴とよくつるんでた子」
「ああ、いたね。やんちゃな子だったよね」
「そうそう、おっさんはその子の親父のいとこの長男だよ」
まーくん。それは私の知らない人だよ...。
知ってる人なのは、山田くんだけ。
てか、それにしても......
「それって、どういう繋がりなの!?」
私は思わず聞いてしまった。
どうして、山田くんのお父さんのいとこの長男と、まーくんが知り合いなんだろう。
繋がりがまったく想像できない。
「ほら、兄貴と山田くんがよく僕をはみごにして二人で遊びに行ったりしててさ、一人置いて行かれて山田くんちの庭でぶらぶらしてた時に、おっさんが話しかけてくれて遊んでくれたんだ」
まーくんは、小さい頃みーくんに突き放されていたことがある。
みーくんはよく「お前は帰れ」とまーくんを突き放し、山田くんとやんちゃをしていた。
私は外で1人でぶらぶらしているまーくんの姿を見かけては、私主導のおままごとに巻き込んでいた。
もしかするとまーくんの姿を見かけなかったときは、山田くんのお父さんのいとこの長男さんと遊んでいたのかもしれない。
「とってもいい人なんだね」
まーくんは「そのとおり」と頷く。
「わナンバーの軽トラの荷台に乗せられ、「馬を見に行くか?」と言われて馬を見せてもらったり、「舟を見に行くか?」と言われて舟を見せてもらったり」
「すっごくいい人だね」
シリアルをスプーンですくって、食べる。
カレーとシリアルの甘さと辛さのタッグが心地よい。
今度カレーしたときは、シリアルにカレーかけて食べてみよっと。
「僕が3連単当てたら、その日は焼肉だったよ。僕の事を神童と褒めてくれて、また行こうなって言ってくれて」
「さんれんたん?」
聞きなれない単語が出てきて聞き返した。
「うん、3着までの着順を言い当てるってこと」
3着ってどういうこと?
馬とか舟とかで3着って......。
競争してる?
それって競馬とか競艇とかいうやつでは?
「ちょ、ちょと待って。お馬さん見に行ったのって競馬? 舟見に行ったのって競艇?」
あれ、言ってなかったっけ?という顔をされた。
「そうだよ。最近はパチンコで勝てる台を教えてくれたんだ。ホント優しい人」
まーくんは尊敬の眼差しで暖簾の先を眺める。
私は心配になる。
まーくんが良くない大人の道に行こうとしてるのではないだろうかと。
別に競馬や競艇、パチンコが悪いってわけじゃないんだけど......。
あれ、確かパチンコって未成年ダメだった気が......。
「ちょ、ちょ、ちょっとー。まーくんはまだパチンコしちゃだめだよ」
そう言うと、まーくんは急に真剣な目になって黙り込む。
「......。ねここちゃん」
まーくんはじーっと、私の目を覗き込む。
急に、どうしちゃったの~?
昼ドラのラブシーンを一瞬思い浮かべたが、不純な思考を振り払った。
2人はいつまでも見つめ合い......
このままずっと硬直しそうな気がしたから、聞いてみることにする。
「ど、どうしたの?」
すると、まーくんは真剣な声で
「もう一回パチンコと言ってくれないか」
と言った。
「パ、パチンコ?」
よくわからないけど、従った。
一体、なんなんだろう。
活舌がおかしかったとか?
「もう一回」
「パ・チ・ン・コ」
一文字ずつ活舌を気にしながら言った。
ちゃんと発音できてるか不安になる。
「チ」が「キ」になってると、よく昔弄られてたことを思い出す。
だから「地球」というと「気球」になって、よく揶揄われた。
ちょっとやだな......。
「もう一回、次はパを小さめに」
パを小さめにするってことは、やっぱりチを強調しろってことでしょう。
練習してちょっとはマシになったと思ったんだけどなぁ。
「ぱチ......」
発音してまーくんの意図がようやくわかった。
決してチがキと聞こえるなんてことではなく......。
「も、もう、恥ずかしいよーーーー」