【コミカライズ】腐女子令嬢は隣国の王子から逃げられない~私は推しカプで萌えたいだけなのです~
 ボイド公爵は右手で顎を撫でた。残念ながら髭は生えていない。ただでさえ年より若く見える顔つきで、宰相という立場でありながらも学生に間違えられることもある。髭を伸ばそうかな、と本気で悩んでいたことをアイリーンは見たことがあるが、残念ながら生えてこなかった、らしい。

「リーンが隣国で勉学に励み、その結果をこの国に持ち帰ってくれれば、隣国との交流もスムーズにいくだろうね。でもそれは、別にリーンでなくても他の人でもいいのではないかな?」

「いいえ、私でなければなりません」
 だって、隣国ではビーエルが認められているから。と思っても、口にしない。
「私が、お父様の娘だからです。宰相という立場であるお父様の娘だからです。大事なことだから、二回言いました」

 そこでボイド公爵は腕を組んだ。何か考えているようだ。アイリーンは両手を膝の上で重ねて揃え、父親が何か言うことを黙って待つ。
 父親はソーサーを左手に持ちながら、ゆっくりとカップを口元にまで運び、一口含むとそれらをテーブルの上に戻した。

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