【コミカライズ】腐女子令嬢は隣国の王子から逃げられない~私は推しカプで萌えたいだけなのです~
 アイリーンはバックヤードから飛び出して、本の売り場の方へと急いだ。月雲の新装版の売り場はすぐにわかった。平積みの上に、例のポップまで飾ってある。そして、何よりも目立つ。他の本は表紙にタイトルと作者名しか書いてない。だが、月雲にはカバーイラストがあるのだ。
 何人かの女性がその売り場の前で固まっていた。持っているけど買う、とか。サイン会は何時から? とか。そんな会話が耳に入ってくる。アイリーンはその隙間から手を伸ばし、新装版を手にした。もちろん、一巻と二巻、二つとも。見本は見せてもらった。だが、こうやって商品を手にすると感慨深い。胸の奥から何かがふわっと込みあげてくる。
 パラパラとめくると、キャラクター紹介。ここはアデライードからの要望もあって、キャラの全身のイラストにした。それから、中の挿絵も数点。ただ、こうやって絵がつくことで不安なのは、今までの読者の脳内にあったそれぞれのキャラクターのイメージを壊してしまわないか、ということ。
 私のロイドとティムはこんなんじゃない! っていう読者もいるはず。全員に受け入れてもらうのは難しい。だけど、一人でも多くの人に気に入ってもらえればいいな、とも思う。
 そんなことを考えながら、レジへと行く。それから予約していた分も受け取り、隠れるようにしてバックヤードへと向かった。

「買ってきました」
 少し頬を高揚させながら、アイリーンは四冊の本を見せびらかした。アデライードは笑っている。
「アイリーンちゃんはこっち側でサインする方じゃないの?」
 その言葉にナミカも同意しているが。
「いえ、この作品はアディ先生の作品ですから。私の絵はおまけです」

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