【コミカライズ】腐女子令嬢は隣国の王子から逃げられない~私は推しカプで萌えたいだけなのです~
 言いたい。アイリーンは言いたい。隣に座ってはいけない、と。でも今、口の中には飲み込めそうで飲み込めきれないデザートが入っている。これが口の中からいなくならない限り、何もしゃべれない。とりあえず、ゴクリと飲み込む。それから急いでスプーンを動かし、残りのデザートを全て口の中に放り込む。

「私は終わりましたので、ごゆっくりどうぞ」
 アイリーンはトレイを持って立ち上がる。
「ごゆっくりどうぞ」
 続いてノエルも立ち上がる。ヘレンは目の前に座ったイブライムに視線を向けるものの、先に席を立った二人の後をついて、やはり席を立つ。ペコリと頭を下げる。

「逃げられましたね」
 ジョアキナは手にしていたトレイをテーブルの上に置いた。そして、イブライムの隣の椅子を引いて座る。

 イブライムはフォークを乱暴に肉に刺す。
「行儀が悪いですよ」
 ジョアキナに咎められるものの「どうせ誰も見ていない」

「どうして、アイリーン嬢に執着するのです? まさかあの時の通訳が留学生であったことは驚きですが」
 楽しそうにジョアキナは尋ねた。

「……だからだ」
 イブライムは答えるものの、それがジョアキナには聞こえなかった。

「はい?」
 聞き返すと。

「プーランジェの者だからだ」

「あなたも、プーランジェに興味があったのですね」

「それもあるが。プーランジェ語を教えてもらおうと思って」

「はい?」

「私はプーランジェ語が苦手だ。だから、教えてもらおうと思って」
 そこでジョアキナは吹き出した。

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