彷徨う私は闇夜の花に囚われて
「美紅。もう大丈夫だから、手を離して」
「あ、うん。ごめんね」
後ろから聞こえてきた声にはっとする。
掴まれていたはずの手は樹くんの大きな手を強く握り返していて。
頼りにしていたとはいえ、固く繋がっているそれに申し訳なくなった。
自分から拒絶したのに、自分が困っているときだけ助けてもらうなんて最低だ……。
そう思うのに、
「謝るようなことじゃない」
きっぱりと否定された。
樹くんは言葉が足りなくても嘘はつかない。
だからきっとその言葉は本心なんだと思う。
こちらを見つめる目も心なしか柔らかいし……。
樹くんにとって、これが謝るようなことじゃないのなら……じゃあ。
「樹くん、ありがとう」
私は感謝を添えて微笑みを浮かべた。
穏やかな感情を向けるのは久しぶりだからか、樹くんは切れ長の目を僅かに大きくさせてこちらを見つめている。
あんまり視線を向けられると、逃げたくなっちゃうな……。