彷徨う私は闇夜の花に囚われて



「……お礼を言ってもらえると思ってなかった」

「お礼くらい言うよ」

「……そうだよな」


樹くんの頷きで終わった私たちの会話。


特に話すことも理由もない私たちの間には沈黙が広がる。


……と、爽やかな風が窓をノックする音が聞こえた。


意識がそちらに向き外を見れば、生命力溢れる緑に染まった葉っぱたちがそよそよと会話をしていて。


それを聞いている木々の上の小鳥たちも朝から楽しそうに、ちゅんちゅんと可愛く鳴いている。


楽しそうだと思うのは私の感情がそうだからかもしれない。


樹くんとの時間の中で初めて安らぎを覚える。


いつもはドキドキ緊張するか、不安に押しつぶされそうになるかで感情が忙しかったから。


今こうして向き合っているのが嬉しくて、つい頬が緩んだ。


“最悪な元カレ”から“クラスメイト”になった樹くん。


どちらからともなく歩き出し、並んで教室へ向かったその日は。


青色が眩しいほどの晴天だった。



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