彷徨う私は闇夜の花に囚われて



どうやら昨日は通話を繋げたまま寝てしまったみたい。


まどろみの中で聞こえてくる声は、私の頭を撫でるような優しさがあり。


またまぶたを閉じてしまえば、紅バラさんを一番近くに感じられる気がした。


「んー……ん?」

「ははっ、寝ぼけてるの?可愛いね」


まだまだ夢の中にいたい私はわざと意識をぼやけさせたままにする。


そんな私を愛おしそうな声で甘やかしてくれるから、ふわふわと夢心地で抜けられない。


姿も見えない紅バラさんに触れてみたくて手を伸ばすけど、私の手は朝の爽やかな空気を掠め取るだけで。


大好きな紅バラさんに思いきり抱き着きたいのに、できないからもどかしくなって。


あぁ、夢じゃないんだなって複雑な気持ちになった。


「あれ、また寝ちゃった?起きなきゃいけない時間なんじゃないの?」

「……起きます」


私が無言のまま感傷に浸っていると、私が二度寝したと勘違いした紅バラさんが痛いところを突いてくる。


そうだ、朝から勉強をするために目覚まし時計を早い時間に設定したんだった……。


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