彷徨う私は闇夜の花に囚われて
軽くないといえば……と、連鎖的にすみれちゃんに教えてもらったあの重いアカウントの存在を思い出した。
『愛してる』
呟かれていた言葉は誰でも使う愛の言葉。
ただ、シャイな日本人……それも子どもが使うような言葉じゃないのがちょっとだけ胸に引っかかる。
……でも、紅バラさんは付き合う前からよく“好き”って言葉をくれていたし。
私に直接想いを伝えてくれる人が、わざわざサブアカウントで呟く必要もないでしょ?
あのアカウントの正体が紅バラさんのはずがないよね……?
「じゃあ、勉強頑張って。また来週、通話しようね」
「……ありがとうございます。通話を楽しみに頑張りますね」
深まりかけた思考を紅バラさんが掬い取ってくれて。
大きく頭を振って変な考えを消した私は、焦りながらもなるべく自然に返し、通話を切った。
終わるときにピロンと愉快そうに鳴った音。
私の感情に伴っていなくて、不快感を覚えた。
「寂しいな……」
毎日、ペットの散歩を一緒にやっている人たちのお喋り声。
朝早くに出勤する人の革靴がコンクリートを鳴らす音。
新聞配達員のバイクのエンジン。
静かな朝の空気を揺らす音。いつもどおりの朝が戻ってきた。
なにもない現実に、戻ってきちゃった。
「頑張るって言ったもんね」
紅バラさんが近くにいない現実に虚しさを感じながらも。
勉強に取り掛かるために、勉強机へと向かった。