彷徨う私は闇夜の花に囚われて
『なにこれ。なんで逃げられないの……?誰か助けて!』
声だけはいくらでも出せるらしく、私は悲痛な叫びを上げた。
迫りくる深い黒からは目を逸らすことも叶わない。
まるで、ちゃんと目の前を見ろと強制されているように感じる。
先程よりも大きくなった影は人の形になり、背中まである真っ直ぐな髪をばさばさと振り乱していて。
『美紅、ちゃん……』
掠れた声で私の名前を呼んだ。
何年も一緒にいて耳に馴染んだ声。
ただし、砂漠で水を求めるような……そんな渇きと欲が混ざった声。
……やめてよ。
悲しみと熱を孕んだ声で、私の名前を呼ばないで……。
『み、く……ちゃん?』
私を見ないで。こっちに来ないで。
私のことを早く諦めて……!
そう、思うのに。
『来ないでっ……!』
『美紅ちゃん……美紅ちゃん!!』
『嫌だってば!!』
追われ、求められ。
私との距離がじわじわと縮められていく。