彷徨う私は闇夜の花に囚われて



私を包み込んでくれる彼に安心感を覚える私だったけれど……。


『ねぇ、ましろ……』


突然、低くなった声が私の心を凍りつかせる。


大好きだけど怖い声。


時折、重い愛を吐き出す声。


この人は……誰だっけ?


思い出さなくちゃいけない。


この人が誰なのかわかっていなきゃいけない。


確かめるために私がそろそろと顔を見上げると、そこには。



『―――美紅……絶対に逃がさないよ』



あぁ……そっか。あなたは私の――――。


重く囁かれた言葉と身体を捕らえる腕の強さが愛おしくて……それでいてとても怖くて。


私は彼の腕の中から逃げてしまいたいと、強く願ってしまった。



◇ ◇ ◇



「……っ!はっ、はっ……はぁ……」


ばちっと目を最大まで開くと、視界に広がるクリーム色の天井。


頭はやわらかな枕に深く沈み、身体は薄い掛け布団に包まれている。


寝汗か冷や汗かよくわからない水滴が額にぽつぽつと浮かび、重たい髪の毛がぴったりと貼りついているのがわかった。


< 150 / 204 >

この作品をシェア

pagetop