彷徨う私は闇夜の花に囚われて
濃縮された甘さとは別の……昔、デートのときには感じられなかったやさしい甘さが舌の上に残った。
「美味しい?」
「うん!」
「良かった」
私が元気よく頷くと、樹くんは目尻を下げて口元をほころばせた。
穏やかな笑みに、トクトクと心臓が音を立て始める。
……こんなに表情豊かな人だったっけ?
昔はもっとクールで喋りにくかった気がする……。
樹くんは私の強い視線を気にせずカップを手に取り、ゆったりと傾ける。
ブラックコーヒーを眉一つ動かさずに飲む樹くんは、モデルのお手本に見えるほど美しくて。
『かっこいいな……』と、漏らしかけた口を慌てて閉じた。
注文したご飯が届くまでの間、私たちはずっと無言だったけれど。
私は言葉を交わさない空間に昔のような気まずさを覚えなくて。
むしろ、なんとなく。樹くんの醸し出す、全てを包み込んでくれるような優しい雰囲気に心地よさを感じていて。
『ご飯、来なくてもいいのにな……』
……なんて、変なことを考えてみたりした。