彷徨う私は闇夜の花に囚われて



口を開くとうっかりなにを言い出すか……自分でもわからなくて危ないから。


「……そう?辛かったら言ってね。喉痛かったら飴もあるよ」


ちょっと得意げに差し出されるのど飴。


数年前と変わってない美紅の人への“お裾分け”に、自然と笑みが零れるのがわかった。




中学2年生の冬休み。市立の図書館で勉強していたときにくれたのと同じのど飴。


その日は特に空気が乾燥していて。


ペンを紙に滑らせる音しか響かない自習室で、俺のたまに出る咳き込みは目立っていた。


喉を潤しても一時的なもので、またすぐに乾いた空気が喉を刺激する。


あまりに酷いものだから一時的にお手洗いへ立って、買った水でうがいもしてみた。


だけど、自習室に戻るまでの廊下で、喉が乾燥していくのがわかって。


『今日はもう帰るしかないな……』


落胆しながら自分の席に戻った。


ただ、ペンや消しゴムを片付けようとペンケースに手を伸ばしたとき。


横には見覚えのないのど飴がいくつか置いてあって。


『良かったらどうぞ。勉強頑張ってください』


と、丁寧に小さな付箋が張り付けてあったんだ。


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